1、回顧

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 次に、芝原さんのベランダの鉢がどんどん枯れていきました。力なく項垂(うなだ)れる植物を見て、そういえば最近芝原さんを見ていないことに気が付きました。  芝原さんは行方不明になっていました。警察を名乗る人に芝原さんについて話を訊かれたこともあります。警察の人は、私が子供だからか過剰なほど穏やかな口調でした。でも、その全身から滲み出る威圧的な雰囲気が兎に角怖くて仕方がありませんでした。警察も怖いですが、事件とか事故とかそういうものはテレビやネットのニュースで見るものだと思っていた私には、隣に住んでいた人が消えてしまったという事実が恐ろしかったです。  それから数日経ちましたが、芝原さんは居なくなったままです。ベランダの植物達は、もう二度と花を咲かせることが出来ないほどに茶色いミイラになっていまいました。  植物が枯れるに連れて、大人達の立ち話も芝原さんの嫌な噂話ばかりになりました。それも、枯れたベランダに見慣れてくると全部忘れてしまったかのよう噂話も消えました。  それでも私は芝原さんのベランダを見る度に胸の奥がざわついてしまいます。もしかして、もう二度と会うことは出来ないのでしょうか? こんなことならもっと話をすればよかったです。
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