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「あれ、いいのー? 私のこと無視するんでしょー? 聞こえないふりしなきゃ駄目でしょー」
取り巻き達は今にも泣きそうです。無視という苛めをしていた中島さん達は、いつの間にか山田さんに好き勝手に暴言を吐かれても言い返せない苛められっ子みたいになっていました。
流石に中島さんが怒って怒鳴ります。顔を真っ赤にしながら騒ぐ中島さんを前にしても、山田さんはニヤニヤと余裕たっぷりでした。
「えーもう無視止めんの? つまんねぇな」
獣のように飛びかかってくる中島さんを避け、山田さんは爆笑しながら教室を出ていきました。中島さん達もそれを追いかけて出ていきます。
「……どうする、あれ」
「どうって、どうにもならないでしょ」
「先生に言う?」
「先生にどうにかできるのかな。前のトラブルも、なあなあで終わっちゃったし」
「それに両方から恨まれそう」
クラスがどんより暗くなりました。私も呑気に本を読んでいられる気分ではなくなりました。
私達は、山田さんと中島さん達のことを見て見ぬふりをすることになりました。誰かがそうしようと言った訳ではなくて、自然とそうなりました。揉め事が発生しても見えてない振り、話し声を大きくして聞こえてない振り、私も内容が頭に入らない本を読むのに集中している振りをします。
四月も後半の月曜日になりました。まさか新学期がこんなにも散々なものになるとは思ってもみませんでした。
今日も朝から中島さんの奇声が聞こえます。気にしない、気にしない……今は本を読んでいるのです。森で迷子になった子供達がユニコーンに出会う大事なシーンなのです。
バシャン。
「ぎゃあああぁ!」
水音と共に心臓に響くほど悲鳴が聞こえました。流石に無視なんかできません。
中島さんが、教室の真ん中でずぶ濡れになって泣いています。近くには空のバケツを持った山田さんが立っていました。
「大丈夫? 火傷でもしたのかと思って冷ましてみたんだけど」
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