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Ⅹ-1 風習(領主視点)
Ⅹ-1 風習(領主視点)
貴賓館への訪問を終えて王宮に帰るとすぐ、執事を呼んで、王妃に面会の約束を取り付けるように頼んだ。
書斎で議事録に目を通しながらも、頭の中を占めているのは、二通の手紙のことだ。皇女の話は想像だにしていなかった内容で、小生はかなり戸惑っていた。
王妃に話を持っていく前に、少し自分の頭を整理する必要があった……。
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数年前、皇女は海岸に倒れている男を見つけた。男は自身の名前も素性も思い出せない状態。皇女はその男を自分の離宮に引き取り、世話をした。
男は、自身にまつわる記憶こそないものの、航海や世事には詳しく、難破した船の乗組員と考えられた。皇女はその男の人柄を気に入り、側近として扱うようになったそうだ。
だがある日、男は病に倒れた。皇女の身代わりとなって毒を口にしたためだ。
皇女は言葉少なに、「彼は東の国の王位継承争いに巻き込まれたのだ」と言った。
毒は男を衰弱させたが、同時に、過去の記憶も蘇らせた。
男は死の床で二通の手紙を書き上げ、姫に託した。一通は息子に当てたもの。もう一通は、シブヤ王妃に当てたもの。
厳封された二通の手紙には、シブヤ王家にまつわる重大な秘密が書かれている。確実に本人たちに手渡してほしい。そう言って、男は亡くなった。
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淡々と、気丈に語る皇女だったが、金色の目には時折暗い影がさした。心から気の毒に思って聞いていた。
「やだわ……湿っぽくなる必要はないのよ」
皇女は話し終えると、小生の視線に気がついて笑った。
「この手紙の伝達は、私のために亡くなったあの方への、せめてもの恩返しなのです」
「姫……」
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