Ⅹ-1 風習(領主視点)

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 小生は言葉もなく、皇女の肩にそっと触れた。皇女は身内で争わざるを得ない環境に生まれ育ち、そのために大切な人を亡くされたばかりだったのだ。 「さてと」  同情を断ち切るように、皇女は文箱を閉じた。金色がかった緑の目が、するどく輝く。 「領主様は、どうお考えかしら。私はこの手紙を王妃に取り次いでも構いませんか」 「もちろん」 「協力してくださるの?」  小生は頷く。断る理由などあるはずがなかった。  手紙はシブヤ王家に関わる内容らしい。協力と言うより、もはや自分のためでもあるだろう。 「その方のお名前は? 息子さんの元にも、早く届けてあげなくては」 「お名前はまだ言えませんわ……」 「なぜ?」  ここまで話しておきながら、皇女はその人の名も、息子の名も、決して明かそうとはしないのだった。 「ごめんなさいね。私なりに色々考えてのことなの。時期が来たらお教えするわ」  理由は測りかねたが、皇女の考えを尊重するよりなかった。  小生はすぐにでも手紙を受け取って帰り、王妃に渡すつもりで言った。 「ではそちらはお預かりして王妃に……」 「いいえ、私が手渡しますわ。あの方との約束ですから」  皇女は譲らなかった。そして、手渡すだけでなく、内容も絶対に聞き出してから帰ると息巻いている。 「二通の手紙の内容は、皇女様もご存じないのですね」 「ええ。開けておりません。私の自制心を褒めていただきたいわ」  小生は王妃宛ての手紙をまじまじと見た。 「ラブレターかな」 「そんな生易しいものですか。王家にまつわる重大な秘密が書かれているのよ」  小生は頭をかいた。 「そこなんですが……父上に宛てるならともかく、なぜ母上に? 舞踏会でミラーボールを回しちゃうような人なんですよ?」  皇女は吹き出した。
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