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小生は言葉もなく、皇女の肩にそっと触れた。皇女は身内で争わざるを得ない環境に生まれ育ち、そのために大切な人を亡くされたばかりだったのだ。
「さてと」
同情を断ち切るように、皇女は文箱を閉じた。金色がかった緑の目が、するどく輝く。
「領主様は、どうお考えかしら。私はこの手紙を王妃に取り次いでも構いませんか」
「もちろん」
「協力してくださるの?」
小生は頷く。断る理由などあるはずがなかった。
手紙はシブヤ王家に関わる内容らしい。協力と言うより、もはや自分のためでもあるだろう。
「その方のお名前は? 息子さんの元にも、早く届けてあげなくては」
「お名前はまだ言えませんわ……」
「なぜ?」
ここまで話しておきながら、皇女はその人の名も、息子の名も、決して明かそうとはしないのだった。
「ごめんなさいね。私なりに色々考えてのことなの。時期が来たらお教えするわ」
理由は測りかねたが、皇女の考えを尊重するよりなかった。
小生はすぐにでも手紙を受け取って帰り、王妃に渡すつもりで言った。
「ではそちらはお預かりして王妃に……」
「いいえ、私が手渡しますわ。あの方との約束ですから」
皇女は譲らなかった。そして、手渡すだけでなく、内容も絶対に聞き出してから帰ると息巻いている。
「二通の手紙の内容は、皇女様もご存じないのですね」
「ええ。開けておりません。私の自制心を褒めていただきたいわ」
小生は王妃宛ての手紙をまじまじと見た。
「ラブレターかな」
「そんな生易しいものですか。王家にまつわる重大な秘密が書かれているのよ」
小生は頭をかいた。
「そこなんですが……父上に宛てるならともかく、なぜ母上に? 舞踏会でミラーボールを回しちゃうような人なんですよ?」
皇女は吹き出した。
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