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「貴方は鋭いわ。ただ、私が言いたいのは、ラブレターなんて可愛いものじゃないってこと」
「はっきりおっしゃってくださっていいですよ……」
「あの方と王妃様は、不倫関係にあったのではないかしら」
皇女は遠慮なく直球を投げてきた。
「死の間際に、わざわざ手紙を書き送るなんて……単なる業務連絡ではなさそうだったの。ちなみにあの方、王妃のことを、アンヌって呼んだわ」
王に対してではなくあえて王妃に向けた、王家を揺るがす話。秘められた関係を連想せざるを得ない。
「ここからは私の推測よ。かなり失礼な仮説なのだけど、聞いてくれる?」
そう前置きすると、皇女は自身の考えを語った。
「貴方は市井で素性を知らずに育ったのよね。それって、貴方が、あの方と王妃の間の不義の子だったからではないかしら……」
ここまで直球だと笑うしかない。
「あくまでも仮説よ。気を悪くなさらないで」
口を挟もうとする小生を制して、皇女は続けた。
「王妃は妊娠に気がつくと、貴方の乳母の屋敷にひき籠り、密かに貴方を産んだ。ゆえに貴方の存在は公にはされてこなかった。けれども第一王子が亡くなると、王室の維持のため、やむを得ず貴方を呼び戻した……」
小生は苦笑しながら皇女の話を聞いていた。確かに失礼な仮説だった。皇女の逞しい想像力には恐れ入る。だが、多分に無理のある説だ。
「王と家臣達は、王妃に王の血が流れていない子供の出産を許し、あげく、その子を皇太子にまでしたと言うことですか?」
「よくある話よ。表向きには、王妃の不義を口外しなければいいのだもの」
確かに、貴族の血統なんて、そんなものかもしれない……。長い歴史の中では、男系の血のつながりが途絶えることなど、ざらにあるはずだ。サラブレッドとしての権威を保つために、皆、それを明かさないだけで。
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