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「王は私の本当の父を知っている……という前提ですか? それとも知らない?」
「あのお優しい王様なら、どちらでも成り立つと思うわ。王様が王妃の不倫を黙認しているにしろ、知らないで呑気にしているにしろ、この国はそのおかげで、まるく治ってることになりますわ」
小生は笑った。
「ならばあの方はもはや王様というより仏様ですね」
「あるいはものすごい狸よ」
「なんともはや、父が可哀想すぎる仮説ですね」
とは言うものの、小生に王の血が流れていなかったことが公になれば、晴れて領主のお役御免となるやもしれず。その一点においては魅力のある仮説であった。
小生が領主でさえなければ、アリオトと、一緒に生きることもできるのだ。
「言葉と表情が著しく不一致なのだけど」
「え?」
「……どうしてそんなに嬉しそうなの?」
自分勝手な思いが、顔に出ていたらしい。もはや繕っても仕方がないだろう。小生は素直に白状した。
「自分に、領主ではない人生の可能性があると思ったらつい……」
皇女は脱力してソファにもたれ、首を振った。
「貴方って、本当に変わった方ね……」
貴女にだけは言われたくない、と小生は思った。
「ですが、皇女様は勘違いなさっていますよ。私が市井で育てられたのは、単に、王家の風習なんです」
小生は七年前、王宮に呼び出されてすぐ、王妃と王から受けた説明をそのまま皇女に教えた。
「複数の王子は災いの種になる。だから素性を知らせぬまま臣籍に降らせるのがシブヤ王家の慣わしなんです」
王家の兄弟というのは互いに脅威でもあるのだ。歴史を鑑みても、権力を欲して争ったり、家臣たちの思惑で派閥争いに利用されることは常だ。
そのような揉め事を避けるために乳母の家にやられていたのならば仕方ない。あの日、齢十の小生はそう納得したものだが……。
「そう……」
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