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皇女は微笑んだ。おめでたいことですね、と顔に書いてある。
「納得いきませんか?」
なぜだろう。実際、皇女様もそれでご苦労なさっているのではないか……。小生はこの時、そんな浅はかなことをちらと思った。
「だって、そんな非現実的な風習を守っている王家は初めてみたわ……」
皇女は憐れむような視線を向けて言った。
「そのやり方、どれだけ手間がかかるのかしら。教育に、監視に、護衛に、家族選定に……全てを極秘でやるの?」
沈黙が下りる。
「ごめんなさい。非効率だからと言って、無意味なこととは限らないわよね……実際、この国はそれで平和なのかもね」
皇女は自虐的な笑みを浮かべた。
「少なくとも、私にはとやかく言う資格はありませんね。その風習、我が国も見習おうかしら」
自分の不遜と不明を恥じると同時に、ある疑念が胸をよぎった。だがそれを口にする前に、皇女は小生に追い討ちをかけた。
「……確か、領主様の兄上は十ニでお亡くなりになられたのよね。失礼ながら死因は?」
皇女の問いかけは、まさに今、小生の考えていたことだった。
「兄の死と私の即位は、なんらかの陰謀によるものだとお考えなのですか」
何者かが作為的に第一王子を廃して、小生を即位させた可能性があるなんて。そんな穿った考え方はしたこともなかった。
「この手紙は、その陰謀にまつわるものだと……?」
「断言はしないわ。でも、その可能性を無視することもできないわ」
皇女は小生の目をまっすぐ見て言った。
「……やれやれ……」
小生は自分が、なんだか急激に老けたような気がしながら、紅茶を飲んだ。
先ほど淹れ直しを拒んだ紅茶は、びっくりするほど冷たかった。
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