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Ⅹ-2 兄と弟(領主視点)
Ⅹ-2 兄と弟(領主視点)
冷たい紅茶を飲み干すと、その勢いでさらりと言ってみた。
「もう……その手紙、ここで開けません?」
「好奇心を抑え続けた私の忍耐を無に?!」
サイテーだわと騒ぐ皇女様。やっぱりダメか。
「王妃に渡してしまうより、今ここで開けた方がよくないですか?」
案ずるより産むが易し。皇女が想像を逞しくしているほどの大層なことは、書かれていないと思うのだ。
「だめよ! あの方との約束を破ることになるわ」
皇女は小生を警戒するように文箱を抱え込んだ。
「その方だって、見られることを前提で書いてませんかね? あなたの好奇心の強さはご存じだったのでしょう」
「まあひどいわ! あの方が、私のことを信用していなかったっておっしゃるの?」
冷静な皇女にしては珍しく、ムキになっている。その様子に、小生は若干戸惑った。
「そんなつもりは……ちょっと言ってみただけですよ」
「一緒に過ごした期間は短くても、私とあの方の絆はとても強かった……父のようにも、恋人のようにも、親友のようにも思って慕っていましたわ」
皇女は、うっすら涙を浮かべてさえいた。小生は慌てた。
「王妃は手紙を燃やして、なかったことにしてしまうかもしれない。そうなれば永遠に真実は明らかになりませんよ。それこそご無念なのでは?」
「絶対そんなことさせない……だから私が手渡しをすると申しあげているのよ」
どうしても自分で渡したいと言い張っていた理由が、ようやくわかった。
小生はハンカチを差し出し、姫に、心からあやまった。
「ところで、もう一通の手紙の方も、直接お渡しになるおつもりですか?」
少し話題を変えるつもりで言った。もう一通の手紙とは、亡き人がご子息に当てた遺言状の方だ。
「王宮に参上するよう、その方のご子息に遣いをやりましょう」
「それは、少し待ってほしいの」
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