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「……なぜです?」
「王妃の手紙の内容を知るのが先よ」
またもや皇女の言っていることについて行けなくなってきた。小生は首を傾げる。
「でも、その方はお父様の死を知らないのでしょう? 一刻も早くご遺言を渡してあげたいと思うのですが……」
皇女は、はあとため息をついて、小生の肩を叩いた。
「貴方って本当に良い方ね……」
なんだか知らないが、ものすごく馬鹿にされている気がする。
「なんです……私はそんなに見当違いのことを言いましたか?」
「いいのよ。貴方にはまだ、あのことを話していなかったのだから」
皇女は二通目の手紙をそっと取り出した。
「全部話すわ。貴方は真っ当な心の持ち主だって思うから」
**********
「ご子息のもとへはすぐに使いをやったわ……」
手紙を本人に手渡しするために、皇女はその方を、自分の暮らす離宮に呼び寄せようとしたそうだ。
「ところが、何度使いをやっても、その方にはお会いできなかった」
「なぜです」
「使いの者が皆、行方不明になってしまったの」
不穏な話になってきた。
「結局、使いを探すための使いを送る羽目に」
軍事国家の密使ともあろうものが情けないと皇女は首を振った。
「見つかったのは二人。揃いも揃って、記憶をなくした状態だった」
「………こわっ………」
小生は鳥肌がたった。皇女様は、どうしてそんな冷静でいられるのか。
「なるほど、それでまだそのお手紙が貴方の手元にあるのですね」
「そういうこと。私はこの数ヶ月、決して怠けていたわけじゃないのよ」
「何者かが、その方に手紙が渡ることを阻んでいる……」
皇女は頷いた。
「我が国の密使の記憶を操作して追い払うなんて、簡単にできる事ではないわ……つまりね、手練れの魔女か、相当な権力者でなきゃ無理よ」
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