歪な家庭

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歪な家庭

私の家が狂い始めたのは2年前のことだ。 私の兄は当時16歳だった。 高校2年生になったばかりだった兄は、交通事故に遭って亡くなった。相手は持病の発作で意識を失い、暴走してしまった車だった。そしてその運転手も原因は持病だったとは言え亡くなった。 母は誰を責めることもできなかった。 なんせ相手も亡くなっているのだから。発作が起きるような持病があるなら運転させないでと、彼の遺族には怒っていたが。結婚をしていなかった相手の親族は母親のみ。その母親も高齢で認知症になっていた。 もはや寝たきりとなっていたその人に、私の母の訴えなど何も届きやしなかった。 高校に入った兄は、大好きな野球に打ち込んでいた。甲子園に行けるような強豪校ではないけれど、兄は毎日楽しそうだった。 そんな彼の日常を潰されたことを誰よりも受け入れられなかったのは、他でもない母だった。 私だって兄がいなくなって淋しくないわけじゃない。 心にぽっかりと穴が開いたままだ。だけど、母が壊れてしまったせいで余計に兄がいないことを悲しんでいる場合ではなくなった私は、徐々に感情が動かなくなっていった。 だけど、私の喜怒哀楽が消えた程度では、この家は狂っているとは言えない。 誰よりも心が歪になってしまったのは母なのだから。 だって、うちには兄がちゃんといるのだもの。
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