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過去にその件でひと悶着あった。
母が狂ったように怒鳴ったのだ。
『どうして私しかチアちゃんのお世話をしないの? 事故に遭ったからってあの子が嫌われる理由にはならないわ! ちゃんとあの子のお世話を2人もしてちょうだい! もっと話してあげてちょうだい!』
そんな風に怒鳴った母に、父はやっぱり傷ついた様子だった。
その時すでに感情など消え失せていた私には、そんなにしんどいのならもう現実を見ればいいのに、としか考えられなかった。
それだけで楽になれるのに。空想の兄の介護をしなくてよくなるのに。介護疲れもなくなるのに。
人形の世話をすることで母が自分の心を守っていることは分かっているつもりだ。
だけど、母がそうすることで父が悲しそうな顔をする。
私の感情は行き場がなくなって消えてしまった。
自分だけが辛いだなんて思わないで欲しい。
私だって……毎夜兄の夢を見た時期があるのに。
「ごちそうさま。行ってきます」
私は今更何とも思わなくなった千晶人形含めて声をかけると、さっさとリビングを後にした。
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