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翌朝、母の発狂する声で目が覚めた。
急いで声がした部屋にかけこむ。兄の部屋だった。
ズタボロのシーツの体からは綿が飛び出している。
凶器であるはさみが突き刺さったままだ。
「あ、あ……あ。チアちゃん、チアちゃん。あぁ、私の千晶……」
「お母さん……」
私が犯人だと気が付いたのか、母は私を涙目で睨みつけると兄の部屋から突き飛ばした。
向かいの壁に背中と後頭部をぶつけた。じんじんと鈍い痛みが広がった。
母は無言で部屋の扉を閉めた。私を拒絶するように。
「チアちゃん、すぐに傷を治してあげるからね。少し待ってね」
くぐもった母の声が聞こえた。
「何があったんだ、晶良。母さんは……?」
廊下で尻もちをついている私に父が手を差し伸べる。その手を取る気がない私の前にしゃがみこみ、心配そうに顔を覗き込んできた。
私はぼんやりとしたまま今見たことを父に話した。
昨夜、私がしてしまったことも。
父は何度も何度も「大丈夫だ」と言ってくれた。
私はその言葉に安心などできなかった。
私が兄を殺した。
私がギリギリで保っていた母を壊した。
ただ、今の生活から解放されるかもしれない、と。そんな微かな期待も感じていることは否めない。
その日、母は兄の部屋から出てこなかった。
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