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 死んだ人間が彷徨(さまよ)っているとか、木の中に死体が隠されているとか。  昔、森の中の神社で無差別殺人があったとか。とにかくいわくに事欠かない。誰かが面白がって広めた。中にはそうとは思えない話もあった。   「亡くなった史君を森で見た」  そう証言したのは喫茶店を営んでいる鍵本(かぎもと)さん。町にはめったにいない40代の男性だった。博生さんの母は友達と喫茶店によく来ていた。史さんの写真を見せてもらったことがあったらしい。  森を見通せる道を通った際、誰かが森の中にいた。よく見ると、小学生くらいの子どもが森の手前に立っていた。小学生があんなところで何をしているのだろうと不思議に思ったそうだ。森は子どもが入るには険しく、大人でも入りたがらない。    それに町の子どもは学校に行っている時間だ。学校を休んでいたとしても、町の子どもはあの森には近づきたがらないと言う。そのワケを博生さんに聞いたが、「行けばわかりますよ」と話すだけだった。  博生さんの両親が森へ入っていくところと史さんが森で目撃されたことは、何か関係がある。そこで、私たちが不定期でやっている現地調査の回に取り上げてほしい、というわけだ。    現地調査の依頼は時々来てはいたが、様々な事情で調査できない場所も多かった。今回はどうにかできるかもしれないとのことで、調査を承諾することになった。
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