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死にたいが口癖の今泉さんが自殺が多いことで有名な踏切に行くというので心配になって同行した。道中、何をしに行くのか尋ねると「下見だよ」と言うので心の底からほっとした。もうシャツを羽織るだけじゃ寒いよと伝えておいたのに、今泉さんは自分を抱きしめるようにして歩いている。踏切には青いライトが設置されていた。青色には精神を落ち着ける作用があると聞いたことがある。光源は白っぽい青に見えるのに、それに照らされる夜道や今泉さんは深い海の色で染められている。その瞳の中で、ぶおんと音を立てて横切る電車が青を揺らす。通り過ぎるのを待ってから、今泉さんは訥々と話し始めた。
「くるりがわざわざ髪を伸ばしたのに、アンディはさらに目を瞑るって言うんだ。耳を塞ぐって言うんだよ。じゃあもう私は目をくり抜いて鼓膜を抉り取らなきゃって思ったの」
「なんの話?」と首を傾げる。
「未来に希望はあるのかなっていう話。ところで効果あるのかね、このライト」
光を指さした今泉さんに「飛び込む人は減っているらしいよ」と教えると、胡散臭そうに顔を歪めた。ふたりで踵を返し、帰路についた。なんとなくだけれどその光源は、生と死の境目みたいな青だった。
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