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私達の愛は歪でした。
性交は未だ成功に至ってはいませんし、今も私は旦那様をちっとも好きじゃありません。切開排膿じみた情事は不定期に続いています。彼の負傷の程度にもよりますが頻度はそう多くないので嫌々御付き合いしていります。褥を共にした翌朝は筋肉痛が鬱陶しく数日間は仕事を休む羽目になりました。止せばいいのに服を開いて覗き見るものだから、私が寝ている合間に獣の如き本能が目を覚まして暴れるのです。実はそちらが本物なのでしょう。怒りこそは原初の感情ですから。勝手に産み落とされたのを怒って赤子は泣くのです。親は子を選べないと言いますが産むかどうかは選択の余地があるでしょう?子供は何も選べやしないのです。自らの意思で変えようもない理不尽をどうして恨まずにいられますか?そういえば依存しながらも憎んでいた父は呆気なく事故で亡くなりましたが、意外と喪失感はありませんでした。もっと狂った愛をくれる人が傍にいたからでしょうね。
私はきっと怒りを抑えつつ痛みに適応する為に後付けで生じた人格に過ぎないのです。故に私は憤怒を止められない。旦那様がやたら御強いから抑え込んでいるけど今後はどうなることやら。彼の方が歳上ですから先に老いて弱くなりますもの。老後の心配をするなんて母の年齢に追い付いたら死のうと考えていた私には信じられないことですが、人生設計が狂ったのも全ては旦那様のせいです。私は悪くありません。とはいえ私達が積み重ねてきた痛みがいつか天罰として収束するのなら死ぬのは二人一緒がいいです。なんて伝えればらしくないと笑われるでしょうね。今にも死にそうな血塗れの顔に一目惚れしたのに、今では貴方の死に顔なんて拝みたくはないなんて。私を歪めてしまった旦那様が甚だ憎いのです。痛みも怒りも受け止めようとする傲慢が煩わしいのです。彼が毎晩のように愛してると囁くから無意識の寝言で呟き返して、いつか一つになれたらと戯けた夢を想うのです。道外れた人でなしの癖に。私は悪い人間です。
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