ダチョウサイズの卵、育てる?育てない?

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 目の前にダチョウの卵くらいの大きさの石?いや、やっぱり卵?とにかく正体不明の楕円体がある。  あなたは育てますか? 「·····いや、普通育てないって」  俺の目の前にある不気味な存在に右頬が引き攣る。しかも一人暮らししている家の玄関真ん前にあるせいで無視することも憚られる。 「や、ワンチャン生ゴミとして捨てたら·····」  ふと閃いた悪い思考に、何かを察知したらしい卵っぽいものがゴロゴロと回転してまるでコチラを逃がさないよう迫ってきている。 「うわ!よく見たら逃げようとしたら足元狙ってきてる」  こうなると家に招き入れざるを得ないようだ。 「ええと、卵っぽいからやっぱなんかあっためるべき、なのか?」  仕方が無いので、冬用の毛布をクローゼットから取り出し掛けてやる。本当はヒーターかカイロみたいなもので温める方がいいんだろうがさすがにそこまではしてやるつもりも無い。  第一コイツの相手をしてやる時間の余裕なんて今日は無かったんだ。 「げ!面接時間まであと1時間しかねーじゃん!」  本命の会社の面接、しかも電車で頑張ってもあと1時間半はかかる。最悪タクシーで移動してギリギリかもしれない。 「まずは、採用担当の人に電話·····の次は、タクシーをアプリで呼んで·····」  慌てているのに妙に冴える。けれど経験則からわかる。この状態の時は何かやらかす。  幸い、採用担当は数十分なら融通を利かすことが可能だと言ってくれたが、肝心のタクシーが空きなし。  諦めずに電車に乗って、タクシーに乗りやすい乗り換え駅でタクシーへと乗った途端、渋滞に巻き込まれた。  そうだよ。この地域、この辺りから渋滞しやすい場所だって知っていたのに、忘れてた。  経験則から出たやらかしが、自分でもコントロールし難いけれど、回避は出来た内容にタクシー内でガックリと項垂れる。  ドラマならここから、「降ります!」って叫んで、支払って目的地まで走って間に合うシチュエーションかもしれない。  残念ながらそれをしたところで、スーツ姿で走れる距離ではないし、第一最寄りの駅も余計に遠いルートとなる。  八方塞がりだ。  潔く、心の中で白旗を上げて採用担当へと再度電話をし、待ってもらっているのに間に合わない。これ以上時間を取らせるのは申し訳ない旨を伝えて、面接日程を変更してもらうか。  難しいならば辞退扱いとしてもらっても構わないと、誠心誠意謝罪をしてひとまず今回の面接は流れてしまった。 (多分、お祈りメール来るんだろうな)  この会社行きたかったなぁ。こっそり心で涙を流しつつタクシーの運転手には家へ帰る最寄りの駅まで送って貰えるように進路変更を告げた。  落ち込みながらも目の前の卵は待ってくれないらしい。  早くも俺の帰ってきた気配を感じたらしく、ゴロゴロと毛布から飛び出して回転しながら出迎えてくれる。 「八つ当たりに玉子焼きの材料として使ってやろうかと思ったけど、なんか怖そうだな」  スーツを脱ぎ、部屋着になると卵は一緒に毛布で包まれて欲しいらしく律儀に待っている。  もう本命の会社はダメっぽそうなので、しばらく企業研究なんかをやり直すのと卒業論文だけが待っている日々。  その間だけでも卵を育ててやるか、とため息を一つ吐き出し動画サイトを観るついでに卵を抱えてちょっと暑い毛布と共にリラックスの定位置で休む。  明日、キャリアセンターの人からなんか言われんだろうな。とか親にバレたらうるさそうだな。とか卒論のネタとかの方に集中する時間が増えるって意気込んでたのにな。  何より卵が産まれるまで育てるって何やりゃいいんだよ。 「考えても仕方ねー。まずは、卵を誰かに託すか就職以外の進路も先生に相談かなぁ」  どうやら同意するつもりはあるらしい卵が左右にゆらゆらと揺れながら反応している。  この揺れのおかげで、どうやら卵の中はまだしっかりとした生命体の形が完成していないらしいことがわかる。  時折、ちゃぽんちゃぽんと水音が鳴るからだ。 「なあ、お前まだ、何者かわかんないから、何も名付けたりしないけどさ。この部屋を産まれた瞬間に大惨事にだけはしないでくれよな」  しばらくしてその約束は果たされた。不思議な卵はどうやら幸運の鳥だったらしい。  ファンタジーの世界や伝説に出てきそうなイメージとは、裏腹に些かペンギンやドードーをイメージさせる空を飛べない鳥。  この鳥のおかげで、卵の頃にダメだった就活どころか、新しい夢も仕事も見つかるという奇跡の連鎖が起こるのだが、この時は必死に何を食べるかわからない鳥のことを死なせないように、食べ物を食べさせるところから研究と親鳥代わりの子育てが始まったのだった。  
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