捻くれ者同士のわたしたち

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 ────あ、このひと、迷ってるんだな。  昼下がり、食堂の裏側で、わたしは大きなキャンバスを見上げている。  雲ひとつないいい天気、空気は澄んでる。ホースで水を飛ばしてみたり、芝生に寝転んでみたり、絵の具をぶちまけてみたり。昼休みの美大生はみんな好き勝手だ。  そんな中に、一際大きなキャンバスが放り投げられていた。  渦巻く青色のなかに、泡のようなものがぽつぽつと浮かんでいる抽象画。きっとまだ途中かけで、うまくいかなくて放り出されたんだろう。タッチも色づかいも統一されていない。それはきっとわざとじゃなく、「迷い」の現れなんだろう。  と、ここまで分析しておいて。 「イズミ、なにしてんのー」  立ち止まったわたしを置いて、数メートル先に歩いていた友だちが振り返ってそう呼んだ。 「ああゴメン、変わった絵があるなあとおもって」 「ええ? そう? 珍しくないでしょ、誰のかわかんない作品なんてそこら辺にゴロゴロしてるじゃん」  まあ、そうなんだけど。  作りかけの彫刻とか、半分白いキャンバスとか、割れた陶芸品とか、丸められた構造図とか。  うちは、この辺ではかなり有名な美術大学。すごい倍率の受験をくぐり抜けた、ちょっと変わった芸術家の卵たちがみんな好き勝手に作品を作って、時々こうやって放置するんだ。 「なに? 気になるの、その絵」 「いや別に……」 「じゃあもう行こ、次の課題の作品わたしぜーんぜん出来てないんだから」 「それはわたしも同じ」  中途半端なその絵から目線を離して、先を歩いていく友達の後ろを追う。秋の美大祭が近いから、最近はみんな自分の作品を仕上げるのに手一杯なのだ。
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