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あと始末
ベッドに横たわったダンテは、自分の喉にナイフを突き立てていた。
「な、なんだよこれ。なんなんだよ」
茫然と立ち尽くしていた俺は、慌てて転がるように書斎へと戻った。
「まずい、まずい、まずい」
無限収能箱を抱えると、俺は廊下に飛び出した。ヘキサシードが目を覚ましたら俺は反逆者として捕まってしまう。
「ひっ!」
廊下に出ると倒れていた二人が首から血を流していた。俺は死体を見ないように視線を上げて、壁に張り付きよけて進んだ。
「どうなってんだよ」
大広間で俺は思考を放棄しそうになった。倒れていた四人も首を切られていたからだ。真っ赤な水溜まりに四人が浮かんでいるさまに、俺は思わず手で口を押さえた。
「やっぱりただの泥棒なんですね」
突然の声に驚き振り返ると、そこに笑顔のヴィンセントがいた。
「ヴィンセント! お前なんで……」
「逃げてないのかって? もちろん逃げますよ。後始末をしたらね」
「お前。お前が殺ったのか?」
笑顔のヴィンセントが得体の知れいものに見えて、俺は恐怖で身動きができなくなっていた。
「ええ。ダンテが僕の標的でしたから。でもおかげで六つの盾まで片付ける事ができました」
「お前何者なんだ」
「僕はアストラル。簡単に言えば、ある組織の殺し屋です。と言っても実際に殺したのは六つの盾が初めてですけどね。標的はみんな自殺しちゃうんで」
俺の頭にさっき見たダンテの姿が浮かんだ。
「自殺させる魔法?」
「違いますよ。僕は普通の民間人です。ただ古の力でマインドコントロールと呼ばれる能力らしいです。相手に語り掛けるだけなんですけどね。自分の愚かさを悟ると人って死んじゃうんですね」
相手をコントロールして死なせる力なんて聞いたこともない。気味が悪くて背筋に冷たいものが走った。
「だから複数相手には出来なくて。ほんと助かりました」
ヴィンセントだったアストラルは、俺が渡した護符を取り出した。
「ずいぶん簡単に話すと思ったら……俺も殺すのか」
「うーん。ロジャーさんは僕を利用しましたからねー。どうしましょうか」
「俺の事を知ってたのか!」
「情報をまいて待っていたんですよ。来てくれると信じていましたよ。偽りの義賊、ロジャーさん」
目の前で微笑む少年に、俺は畏怖の念を抱いた。情報収集の時点から踊らされていたんだ。
「おま、え」
しまったと思った時にはアストラルは護符を擦っていた。もう口づけは済んでいたのか。遠退く意識の中、アストラルの声が聞こえた。
「おやすみなさい。英雄さん」
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