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ラジロアの夜
「では明日の夜にサラマンダー陣営はクラナの包囲網に。明け方にはウンディーネ陣営がその外周の配置に着く。マンティコアとグリフォン各班の五名が敵地に潜入し撹乱、同時にウンディーネが投石機で攻撃を開始。その間をサラマンダーが切り込め! これで終わらせよう。もう無駄な死は見たくない!」
会議が終わると歓談が始まった。作戦は傭兵を中心に自国の魔導兵とは別に行動する流れだ。
「おい聞いたかさっきの。無駄な死は、だとよ。結局得するのは帝王のダンテと傭兵の俺たちだけどな」
近くにいたベテランを通り越して剣に振り回されそうな傭兵くずれが、口髭に酒の泡をつけて笑いかけてきた。
「そうだな。まあ望まず戦ってる兵もいそうだし、本心なんだろ」
俺は鼻で笑ってみせた。
「お前さん名前は? 配置はどこだ」
「俺はウンディーネで後方から支援だ」
顔を覚えられてもマズイので、肩をすぼめてそれだけを答えた。口髭は少し身を引いて俺を眺めた。
「確かに短剣しかぶら下げられない色男って感じだな。お前さん本当に傭兵か?」
口髭は俺の下半身に目をやってイヤらしく笑った。しかし人を見る目はあるようで一瞬ひやっとしたが動揺は隠せた。
「んじゃ俺様があっちで暴れたらドカンと頼むぜ。じゃあな若いの」
足をふらつかせ去り行く口髭の背中を見送りながら、こいつが潜入部隊だなんて嘘だろと思った。潜入は俺の特技だ。口髭が酒樽みたいに的になる姿が頭に浮かび健闘を祈った。
傭兵たちも眠りについた頃合いをみて、俺はダンテの居場所を下見に施設を抜けると、巡回する見習い魔導士の足音を背に街の静けさに身を溶かした。
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