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矛と盾
紛争当事国の事だ、関わるべきじゃない。だが同情した訳じゃないが、目の前にいる一人くらい救ったっていいだろう。それに、この出会いを利用しない手はないと思えた。
野外浴場で出会った翌日。昼間の雑踏に紛れてヴィンセントと落ち合った。
「うまくゆくでしょうか……」
五芒星が刻まれた銀製の護符を受け取ったヴィンセントの手は震えていた。民間人には怖い経験になるだろうから無理もない。
「大丈夫。この護符には五回分の睡眠が封じられてる。口づけた人間が三回こすれば、目の前の奴らに呪文がかかる。口づけは一回ずつ必要だ。まあ安全装置みたいなもんだ。本人に呪文はかからないから安心していい」
「こんな高価な物、僕には」
「大丈夫だ。それ以上に価値のあることだ。家族と安全に暮らしたいんだろ」
魔道具は確かに高価だ。正直、失敗してもらっては困る。ヴィンセントは頷くと護符をしまった。
「あとは誰にも見られないように逃げろ。お前が攫われたように細工をしておく。それでヴィンセント。お前は自由だ」
「ああ。ありがとうございます」
目を潤ませ手を握ってきたヴィンセントを見て、俺は全て上手くゆくと陶酔していた。
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