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男の子は品の良い衣服を身につけ、ずいぶんかわいらしい顔立ちをしていた。目がくりくりと輝いており、年齢はアシュレイより下だろうか。
「わ、わたしが連れてきたの」
アシュレイがもじもじと自信なげに答えた。
「どうして?」
「僕が迷子になったからです」
幼いわりに、はっきりとした物言いで男の子は答えた。
「迷子で心配だからお家まで連れてきたのね?」
アシュレイは不安そうにうなづく。
「お庭で遊んでいたら門の外をうろうろしていて、お話を聞いたら迷子だというからとても心配になったの」
「迷子の子どもを助けるなんてすばらしいわ。さすがアシュレイよ。でもね、この子のご家族がどれだけ心配しているかわからないわ。迷子の子どもを勝手に連れてきてはいけないの」
アシュレイはしょんぼりとうなだれた。
「アシュレイは悪くありません!僕がお願いしたんです。僕の家族はこの国にいません。その代わり、執事のジョルシュと護衛騎士のホーネストが一緒で、彼らとはぐれてしまい困っていたのです。二人が僕を探しているはずです」
本当に幼子とは思えない口調に驚き、話しぶりからどうやら他国から来た入国者だと思われる。
「お姉様、警備隊に連絡してみては?」
ローラの言葉にマーサはうなづいた。
「そうね」
ばたばたと電話のある部屋へと向かう。
*
「何歳?ずいぶんしっかりしてるんだな」
ベンジャミンがおもしろそうに話しかける。だらしない男だが、興味があるものにはとことんな性分だった。
「五歳です」
「国は?」
「隣国のシャンガスから参りました」
ベンジャミンがふんふんとうなづく。
「兄弟は?」
「うちみたいにいっぱいいる?」
まとめられるのがイヤなわりに、いつもまとまって質問したり行動したりするトマスとマーク。
「兄弟はいっぱいいますが、仲がいいわけではないですね。年齢も離れていますし」
「お名前は何て言うの?」
ローラが柔らかい声色で尋ねる。
「名前は……」
「リンくんって言うのよ!」
リンの代わりにアシュレイがうれしそうに答えた。
「リンくんね、私はローラよ。今電話に向かったのが一番上のマーサで、二番目がそこのベンジャミン。三番目が私で、四番目と五番目がトマスとマーク。末っ子がアシュレイよ。どうぞよろしくね」
リンはうなづいてにっこりと微笑んだ。天使のような微笑みである。
「……ダメね。警備隊に似たような服装の迷子の情報はなかったわ。どう見ても身分は高いし、すぐに届け出が出されていると思ったのだけれど」
マーサが戻ってきてため息をついた。
「確かに着てる服が上等だよな。お前、自分の家の爵位はわかるか?」
「……公爵です」
マーサたちは納得の唸り声を上げた。
そこへ使用人のエレナが飛び込んでくる。
「マーサお嬢様、お客様がおいでです!隣国の公爵家の方だとか。おそらくその坊っちゃまをお探しなのではないかと」
「あ、きっとジョルシュとホーネストです!」
リンはドタバタと椅子を降りると、子どもらしく軽快な足どりで玄関へと向かった。
マーサたちが出迎えに行くと、ジョルシュとホーネストはたいそう安心した様子を見せていた。それはそうだろう。五歳の子どもが迷子だったのだ。
「ありがとうございます!リン様がこの辺りでいなくなったため、周辺を探していたところでした」
「こちらこそ申し訳ありません。妹が勝手に中へと引き入れてしまったようで、大変なご迷惑をおかけしました」
「ご、ごめんなさい」
アシュレイが涙ながらに謝ると、リンがすぐさま否定した。
「アシュレイは悪くない!迷子になった僕を助けてくれただけなんだ。怒らないであげて」
「もちろんでございます。怒りなどしましょうか。勝手に消えたリン様には少々お仕置きが必要ですが」
リンはべーっと舌を出した。先ほどまでの礼儀正しさが嘘のようだった。ジョルシュに甘えているのだろう。
「本当にありがとうございました。最近わけあってこちらに来たばかりでして。シャンガスにいては危険が及びそうだったためメイアムまで来たのに、まさかこちらでも危険な目に遭うのでは、とビクビクしていたところでした」
「シャンガス国で何かあったのですか?情勢は落ち着いていると聞いていますが」
「第一王子と第二王子の派閥が争っているのです。リン様は第一王子側なのですが少々危険でして……落ち着きしだい帰国予定ですがいつになることやら」
ジョルシュは大きなため息をついた。
「メイアムは穏やかな国なのでご安心下さい。しばらくゆっくり滞在していただければいいと思いますよ。我が家は貧しい伯爵家なのでたいしたものは出せませんが、よかったら夕食をご一緒にいかがですか」
そうやってみなで食卓を囲むことになった。
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