貧乏伯爵令嬢は弟妹が立派に育つまでは結婚しません

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 あの日以来、リンはデュロイ家に毎日やってくるようになった。どこかはわからないが、彼らはそう遠くない場所にお屋敷を借りて住んでいるようだ。  常にホーネストが一緒なので、ローラはウキウキで学校から早く帰宅するようになった。  マーサは昼間は家のことをして、夜は街の食堂に働きに出るのが日課で、それくらい生活は逼迫していた。  ベンジャミンも学校に通っていたが、決してやる気がないわけではなく、常に妹弟たちのことを考えていた。  学校をやめることも考えたが、伯爵家の後継ぎとして学力や知識はあった方がいい。果たしてどうすべきか、と悩んでいたのがやる気なく見えていたようである。  リンは一番年の近いアシュレイと遊ぶものかと思ったが、常にマーサの隣りにいた。よくお手伝いをしたり、たわいもない会話をしたりしている。 「マーサは学校に行かないの?」 「もう十分よ。学費も高いし、ベンやローラ、他のみんなのためにも働いて稼いだ方が懸命だわ」 「そうなんだ。で、どこで働いているの?」 「夜の食堂よ」  リンはぎょっとする。 「え、夜のお店で働いているの?」 「違う違う。ごくごく普通の食堂よ。夜に働いているっていうだけ。お酒も出すけどね」  マーサは、夜のお店、という表現がおかしくて思わず笑ってしまう。 「リンの国……シャンガスはどういう国?楽しい?」 「素敵な国だよ!王族の争いがなければもっと楽しいと思うけどな」 「そうね……リンはもしかして婚約者がいるの?」 「うーんとね、生まれたときからしばらくいたんだけど、今はいないよ」  今度はマーサがぎょっとする番だ。 「生まれたときから婚約者がいるの?」 「僕の国では、そいうこともよくあるんだ。でも、第二王子の派閥だってわかったからすぐ婚約破棄したけどね」 「へぇー、奥が深いのね」  幼子がそんなことまで理解していることに驚いた。しかし、ある矛盾に気がつく。 「あれ?あなたが産まれたときは、まだ第二王子は産まれてないわよね。なのに第二王子の派閥だったの?」 「うん。これもよくある話なんだけど、第二王子の派閥に変わったんだよ。僕が十五歳のときだったかな」 「……十五歳?」 「……あー、ごめんごめん。間違えた。五歳だよ。最近、婚約破棄したんだった」  リンは慌てて否定したが、マーサがふと彼の後ろを見ると、普段は無口で無表情なホーネストが珍しく目を見開いていた。  特に深く聞こうとは思わなかったが、生い立ちにも色々あるのだろう。人には知られたくないこともある。  マーサは気にせず、リンにパンケーキを焼いてあげると彼は満面の笑みで頬張っていた。
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