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「ついに、デュロイ家に縁談が舞い込んだぞーい!」
ハイテンションで食堂に現れたのは、言うまでもなく、マーサたちの父親デュロイ伯爵だった。
食事中のデュロイ家の子どもたちとリンは、ぽかんとしている。
「ホントに?冗談じゃないだろうな」
一番に疑ったのはベンジャミン。父親のことはほとんど信用していなかった。
「そんなくだらない冗談を言うわけないじゃないか」
「あ、そう」
にこにこの父親の顔を見ても冷たくあしらうベンジャミン。にこにこなときが一番怪しかった。父親がにこにこなときに良いことがあった試しがない。領地を騙し取られたり、お金を騙し取られたり、勝手に連帯保証人になっていたり……
「お父様、本当なの?」
マーサも心配そうに尋ねる。
「ああ、本当だ」
「ベンやローラたちのためにならどこへでも行くけど、できれば少し先にできない?せめてトマスとマーク、アシュレイがもう少し大きくなるまで……」
トマスとマーク、アシュレイも不安そうな表情を浮かべている。
マーサの隣に座っていたリンが、マーサの服の裾を軽く引っ張った。
「もちろんリンもね」
マーサはリンの頭を優しく撫でる。
「いや、待つことはできない。これは決定事項なんだ」
「決定事項?」
「そう。これを承諾することによって、デュロイ家の借金を全て肩代わりして下さるそうなんだ!わはは~」
静まり返る食卓。悪い予感しかしなかった。
「……ところで、相手はどなたなの?」
ローラも完全に疑いの眼差しに変わった。
「ブタリアン子爵だ」
「ブタリアン子爵〜!?」
食卓に最後の晩餐のような悲鳴が広がった。
「ブタ子爵って、親父正気か?あいつ何歳だと思ってんの。四十?五十?」
ベンジャミンが食ってかかる。
「ベン、ブタ子爵は失礼よ。言葉を謹んで。私はお相手が何歳でもかまわないわ!」
弟妹たちとは異なり、さすが長女。落ち着いた大人の対応だった。
「それから、縁談相手はマーサではない。ローラだ!」
「はぁ!?ローラですって!ローラはまだ十五歳よ。とんだブタロリ子爵ね!私が今から行って成敗してくれるわ!!」
マーサは椅子を倒して立ち上がった。長女の威厳と冷静さはどこへやらである。
「お姉様、落ち着いて」
「ローラ、大丈夫よ。私にまかせなさい。ブタロリ子爵になんか嫁がせないわ。どうにか話をして、私に変えてもらいましょう!」
「いやー、それは無理なんだよなあ」
デュロイ伯爵が申し訳なさそうな顔をみなに向けるが、その顔を見て憐れむものは誰一人いない。
「……今度は何?」
「ローラ以外は認めないそうだ。行き遅れの娘はイヤだと。あと、ローラには学校もやめてほしいそうだ。家にいてただただ癒やしに徹してほしいそうだよ」
「はぁ?はぁ!?あんのブタロリクソハゲ子爵!このご時世に学校へ行くなですって?あったま、おかしいんじゃないの!大丈夫よ、ローラ。私が子爵家に入って、癒やしてさしあげるわ。毎日あいつの頭に鉄拳をお見舞いして正常な頭に戻すから、それで問題ないでしょう。あなたたちはいつもどおりの生活をしていてかまわないのよ」
「お姉様、少し落ち着いて考えましょう。何かいい方法があるはずだわ」
ローラが心配そうにマーサを見つめた。
「いや、これは決定事項なんだ」
デュロイ伯爵は、こんな子どもたちの様子をみても意見を覆さなかった。どうせもうお金を受け取っているのだろう。
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