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「おまえはほんとうに何もできんヤツだな」
部長のパワハラが今日も吹き荒れる。
「おまえにできることなんて、何かあるのか? あん?」
標的は私ただ一人だ。
他の社員はただ、そのいつもの光景を見て笑っている。
夜、洗濯機が壊れたのでコインランドリーに行った。
店内に入ると、他に客はなく、しかし大型のドラム式乾燥機のガラスの向こうに人影があるのを見つけた。
「おおっ!」
そのひとは私に気づくと、ガラスを中から叩いた。
「助けてくれ!」
部長だった。
お金を入れ、ボタンを押すだけで、乾燥機のドラムは回りだす。
私は横に並ぶそのボタンを眺めた。
100円〜10,000円まで選べるらしい。
そのドラム乾燥機はなかなか高性能なもののようで、10,000円払えば、中に火を起こすことも出来るらしかった。
「助けてくれ!」
部長が泣き顔で、私に縋るように、叫ぶ。
「俺が悪かった! どうか……」
周囲には、見渡す限り誰もいない。
私は、ボタンを──
押すわけがない。中からは開かない仕組みのそのドアを開けてあげた。這い出てきた部長の頭の上から、言う。
「なんでこんなとこ入ってたんですか」
「すまん……。すまん……。恩に着る」
「──なんで押さないんだよ」
「えっ?」
誰もいなかったはずの店内に、私と部長以外の声を聞き、私はきょろきょろと辺りを見回した。
声はだんだんと増えていく。
「『ざまぁ』しろよ!」
「面白くねーよ!」
「そいつを殺せ!」
「火だるまにしてやるんだよ!」
私は部長を振り返った。
部長にこの声は聴こえていないようだった。
一際強い声が、私に命じた。
「やれよ!」
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