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3、真夏のスノードーム
黒い、平たい身体をうねらせて
エイの大きな影が
乃愛の頭の上を通り過ぎていった。
見上げるガラス天井の上は
魚たちの泳ぐ大水槽
そこを通り抜けた光が
揺らぎながら床に映るのを踏み踏み
乃愛とユウギは水族館の順路を進む。
新しい、白いスニーカーを履いた乃愛の足は
エイやサメや瞬速で行き過ぎる銀色の魚影を
踊るようにピョンピョンと跳ねて渡って行く。
ユウギは立ち止まり
部屋の壁に渦巻く無数の泡沫の影が映って
自分を取り巻いて登ってゆくのを見上げた。
泡が上がっていくのではなく
まるで自分が
ゆっくり水底に沈んでゆくようだ、と思いながら。
「自分が沈んでいくみたい」
同じことを思った乃愛がそう言ってから、さらに続ける。
「ねえ、知ってる?
雪が降ってる時、空を見上げると
自分が空に登っていくように感じるんだよ?」
「ふうん」
と、ユウギは頷きながら言った。
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