3、真夏のスノードーム

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コロナで入場が制限された水族館の中は 夏休みとは思えない静けさだ。 2人は海岸で時間を潰し 指定された1時過ぎに やっと、中に入ることができた。 相模湾の海底を再現した水槽を過ぎると いきなりフロアが広く明るくなって 壁一面が海中となった。 そこが江ノ島水族館の一番大きな水槽だった。 大水槽は巨大な円柱状で それを取り囲むように作られた 緩やかな螺旋階段を降りるようにして進むと ところどころガラス張りになって 中が覗ける造作(つくり)になっていた。 2階から地下までの巨大な水槽の中は 中心に塔のようにそびえる岩肌を 無数の泡が撫であがり 揺らめく海藻の間をすり抜けてゆく。 その合間を、様々な姿態で泳ぎ回るモノ 絶対に群れから離れないモノ 反対に絶対群れず、薄暗い岩場から たった独りでこっそりこちらを見ているモノ 地下まで降りると水槽の一番下の薄暗い海底に 大きなカニが置物のようにビクともせず こちらを見ていた。 ユウギはカニの前で立ち止まり 動かないカニを見た。 カニもユウギを見ている。 乃愛も、カニの前に立ったが 乃愛が見てるのは カニじゃなくて、ガラスに映ったユウギだった。 背が伸びただけではなく ユウギの骨格はやはり 子供から、若い男の子に変わっていた。 乃愛は、自分だけ置いてきぼりにされるような 不安な気持ちに襲われる。
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