1、天使失格

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ユウギの部屋につくころには いつまでも薄明るい5月の空も鎮まって 玄関わきの曇りガラスの小窓は 黄色い明かりが灯っていた。 キッチンの換気扇も回っている。 智子がインターホンに話しかけると ユミがすぐにドアを開けた。 素面のようだった。 「ユウギ君が施設に連れていかれたって  ほんと?」 「うん…  2ヶ月の強制保護だって  私と一緒に暮らしちゃ いけないんだって」 泣き腫らしたように赤いユミの目に みるみる涙が潤む。 「…どうして…?」 「性的虐待って」 「はぁ?性的虐待?」 智子の後ろに立っていた乃愛は 思わずギュッと、拳を握ってしまった。 「うん、私がユウギに性的虐待したって…  そういうんだよ」 智子はとっさに周りの目を気にして 誰もいない暗い廊下を見回し ちょっと中に入れて、と言った。 しかしユミは、首を横に振る。  「…ねえ、あの民生員って  智子さんに聞いてウチに来たっていうの  智子さん、何言ったの?」 「何って… ちがう!私、虐待だなんて言ってないよ! ただ何か、助けになりたくて ユミさんがアザ作ってたことが気になって 杉山さんのお義姉さんが 民生員やってるって聞いたから 何かアドバイスもらえるんじゃないかと思って」 「助け?になりたい?  ………助けって、何?  …ユウギと離れて暮らすなんて  私、死んだほうがましよ」 「ごめんね…でもなんで…」 ユミは黙って 智子を責めるように睨んだ。 言葉を探しあぐねている智子の返事を待たず ユミは不自由な方の手で涙をぬぐいながら 「智子さんは 私をを憐れんでるんでしょ? 私とユウギを、可哀想と思ってるんでしょ? それって大きなお世話だよ 憐れみなんて、要らないよ」 ユミはそれだけ言って ドアをゆっくり閉じた。
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