2、コロナ

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ユウギは去年の秋には 児童保護施設から家に戻り それ以来、登校しているが 以前にも増してクラスでは浮いている。 ユウギが施設に入れられた一件以来 智子はユミから距離をおいた。 気になってはいるが どう接していいかわからない。 ユミから、例のマルチまがいの 化粧品営業LINEがたまに来るが 返事はしていない。 乃愛も、いっとき ユウギの部屋に行かなくなっていたが 最近、また寄るようになった。 だって ユウギの部屋は 居心地がいい。 ユウギは一学期の途中から 学校を休みがちになっている。 ユウギが学校を休んだ日でも 乃愛が学校帰りに寄ると ドアのカギは開いている。 多分、ユウギが開けといてくれる。 チス、と言って乃愛が部屋に入ると ユウギは眠てるかスマホゲームをしている。 乃愛がコンビニの袋をテーブルに置く。 飲み物やスナック菓子をつまみながら 2、3時間、お互い全く別のことをしてる。 じゃあな、と乃愛が帰るまで ずっと口を利かないこともある。 コロナで在宅ワークや休業が増える中 智子の勤めるスーパーは休みになるどころか むしろ忙しくなって時によって土日も出る。 シフトが連日になると 智子はなんの余裕もなくなる。 家に帰るなりシャワーを浴び 倒れるようにソファで寝落ちしてしまう。 父親は去年から単身赴任で仙台に行った。 この春、大学進学した兄は 大学の近くに一人暮らしをはじめた。 だから 乃愛は家でひとりの時間が増えた。 その「家で1人の時間」が なんとなく落ち着かない。 だから、ユウギの部屋に来る。 「大人はコロナにかまいっきりで 私たちは放っとかれてるよね ま、楽だけど」 乃愛はイヤホンを耳に着けたままつぶやく。 ユウギは聞こえてるのか聞こえてないのか 何も答えない。 それが乃愛には心地いい。 「緊急事態宣言」が解除されてからも コロナの感染者数は行ったり来たりしながら それでもジワジワと増えてゆく。 人々の関心はとにかくコロナに集中している。 世の中全部が息をひそめてる。 ちょっと動かすと粉々に崩れる ひび割れが入ったガラス瓶みたいだ。 でも ユウギの部屋は そんなこと 全然関係ない世界だった。 一日中、半分しまった オレンジ色のカーテン 敷きっぱなしのベージュのマットレス まるで静かな 温かい、海の底みたい。 乃愛はたまに冷蔵庫からクリオネの瓶を取り出した。 ゆっくり揺れる水の中で クリオネはふらりと羽を広げ、すぐに閉じた。 (オマエの世界も静かだね 冷たいのにあったかそう) そう話しかける。
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