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ユウギはコンロの火を止めた。
「乃愛も食う?」
「やば!美味そう!
朝ごはん食ったんだけど!」
お皿3つに、卵が絡んだだけの
黄色いパラパラ・チャーハンが分けられた。
香ばしい醤油とネギの匂いだ。
ユミは後遺症が前より悪くなったのか
寝起きのせいなのか
足をのろのろと引き擦って、やっとキッチンまで来た。
青白い顔は痩せたのに
どこか水腫(むく)んでいる。
首を伸ばし、乃愛のスマホを覗いた。
「江の島水族館?いいねー行ってきなよ」
ユミは、自分が行くかのように瞳を輝かせ
せっかく座った椅子からゆっくり立ち上がると
布団の敷いてある部屋から財布を取ってきた。
1万円札をテーブルに置く。
「これで足りる?」
「え、こんなに?かからないよ!」
乃愛はおかしそうに笑って言った。
「だって、電車が往復で1人¥800でしょ
入場料が、中学生は¥700でしょ
イルカのショーを見るとプラス¥300でしょ」
「いいよ、持っていきなよ
ご飯も食べるしアイスとか
欲しいものとかあるじゃん、きっと足りないよ」
そう言って
一万円札を突き出す。
「おばさんも行く?」
「ううん」
首を横に振った、つもりだろうけど
ユミの首は微かに揺れただけだった。
相変わらず無表情だが
乃愛には最近、ユミの感情が少しわかる。
今は、とてもうれしそうだった。
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