1、天使失格

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1、天使失格

「ミンセ…イ?」 ユミの目は虚ろで、舌も回っていない。 人気(ひとけ)に気づいてドアを開けたのではなく 何かを取りに来たらしい。 彼女の息から というか 部屋の空気全体からビールの匂いがする。 「なに?」 部屋の奥から、若い男の声がした。 ギョッとしたが 乃愛はすぐにユウギだと気づいた。 ユウギはいつもボソボソと受け答えするし はっきり話す声を聞いたのが 久しぶりだったけど ユウギは『声変わり』しかかかって たまに大人のような声に 聞こえることがあるのだった。 部屋の奥は薄暗くてよく見えない。 ベランダ側の月明かりに ユウギの裸の上半身が見えた。 5月とはいえ その日は肌寒い小雨。 ほぼ裸の母子の姿は異様だった。
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