無言の壁

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無言の壁

葵はいつも無表情で、誰にも近寄らない。それは、僕だけではなく、クラスの誰もが感じていたことだ。だが、僕はその壁の向こうにあるものが見たくなった。 初めての接点は、放課後だった。 「君、図書館に来るんだな?」 その日、僕は偶然、彼女と同じ図書館に足を運んでいた。無言のまま本棚の前に立っていた葵に、僕は声をかけた。 葵は一瞬だけ僕を見たが、すぐに目をそらし、答えた。 「…暇だから。」 「暇?すごく冷静だな。」 「別に。」とだけ答え、葵は本を取ると、また無言で棚に戻した。 その冷たい言葉の中に、どこか寂しさが見え隠れしていることに、僕は気づいた。 その日から、葵との関わりは少しずつ始まった。図書館で会う度に、無言のままお互いに本を選び、時折目が合うだけだった。 しかし、その一瞬の視線交換の中に、何か不思議な感情が芽生えているように感じた。
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