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少しずつ
その後、葵と何度も顔を合わせることが増えていった。しかし、彼女の態度は変わらなかった。まるで誰にも心を開こうとしていないようだった。
だが、ある日、僕が学校を終わらせた後、急に葵が僕に声をかけてきた。
「…君、今日、どこか行くのか?」
「え?いや、帰るだけだけど。」
彼女はほんの少し目を伏せると、続けて言った。
「じゃあ、一緒に帰るか?」
僕は驚いた。今までそんな素振りを見せなかった彼女が、突然そんなことを言うなんて。
「うん、もちろん。」
こうして、葵との距離が少しずつ縮まっていくことになった。
初めは、無言で歩くことが多かった。葵は歩調も速く、僕はその後ろにぴったりとついて行くしかなかった。彼女の無表情の顔が、どこか遠くを見つめているような気がして、その視線の先に何かを探しているのではないかと、僕は思った。でも、葵は決して僕に話しかけることはなかった。それが続いたある日の帰り道、僕はふと尋ねてみた。
「葵、さっきからずっと無言だけど…何か考えてることがあるの?」
葵はその時、少しだけ歩みを止めて振り返った。目を見開き、そして一瞬、冷たい視線が僕を刺す。
「…考えていること?別に、何も。」と答えた葵は、すぐにまた歩き出した。
その言葉には、どこか響くものがあった。彼女が心の中で何かを抱えていることを、僕は感じ取っていた。それを言葉にしてしまうのが怖かったのか、彼女はただ無表情で答えたのだろう。
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