少しずつ

1/1
前へ
/19ページ
次へ

少しずつ

その後、葵と何度も顔を合わせることが増えていった。しかし、彼女の態度は変わらなかった。まるで誰にも心を開こうとしていないようだった。 だが、ある日、僕が学校を終わらせた後、急に葵が僕に声をかけてきた。 「…君、今日、どこか行くのか?」 「え?いや、帰るだけだけど。」 彼女はほんの少し目を伏せると、続けて言った。 「じゃあ、一緒に帰るか?」 僕は驚いた。今までそんな素振りを見せなかった彼女が、突然そんなことを言うなんて。 「うん、もちろん。」 こうして、葵との距離が少しずつ縮まっていくことになった。 初めは、無言で歩くことが多かった。葵は歩調も速く、僕はその後ろにぴったりとついて行くしかなかった。彼女の無表情の顔が、どこか遠くを見つめているような気がして、その視線の先に何かを探しているのではないかと、僕は思った。でも、葵は決して僕に話しかけることはなかった。それが続いたある日の帰り道、僕はふと尋ねてみた。 「葵、さっきからずっと無言だけど…何か考えてることがあるの?」 葵はその時、少しだけ歩みを止めて振り返った。目を見開き、そして一瞬、冷たい視線が僕を刺す。 「…考えていること?別に、何も。」と答えた葵は、すぐにまた歩き出した。 その言葉には、どこか響くものがあった。彼女が心の中で何かを抱えていることを、僕は感じ取っていた。それを言葉にしてしまうのが怖かったのか、彼女はただ無表情で答えたのだろう。
/19ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加