13人が本棚に入れています
本棚に追加
最悪の誕生日には続きがある。
もう直らないと絶望していた自転車は、魔法によって再び動くようになった。
「わぁ…っ!すごい」と驚いてる間に、その人はどこかに行っちゃって。お礼も言えず、しゅんとしてたら、ビニール傘を手にして戻って来てくれたんだ。
降り続く雨から守るみたいに傘をさしてくれる。
それだけでも、じゅうぶん親切な人で、これ以上の優しさはいらなかったのに。
濡れた私を、従姉妹が働いてると言う美容院まで連れて行ってくれた。
「このまま帰ると風邪引くから」
そう言って、二人には不似合いな凹凸の相合傘で、雨音だけ耳に残し静かに歩いた。
𓈒 𓏸𓈒𓂂𓂃♡
美容院に着いたら、従姉妹の朱音さんが快く出迎えてくれた。着替えまで用意してくれていたので、びっくりしちゃった。
気持ちの良いシャンプーと、ブローを施されながら、こんな会話をしたの。
「……矯正しようかな(いいなあ。朱音さんの髪、癖がなくてさらさらで長くて綺麗)」
「軽い癖毛だから、ストパーの効果あるよ。毛先だけパーマするのも可愛いし、染めるなら明るいオレンジ系か、チョコ系のブラウンも似合うと思うなあ。こういうの好き?」
続けながらスマホを開き、カメラロールに保存しているヘアスタイルを見せてくれる。
ぱちん、と瞬き一つ。気持ちが横に傾いて「決めた」と胸中で呟いた。
『バイト代が入ったら、憧れのさらさらストレートにして、髪も染めるの』って。
心のメモに付箋を貼った。
『可愛くなるための約束』も書き足して、大事にしまったのに、それは数分も経たないうちに、
「なんで隣来ねーの。俺がそっち行こうか」
彼によって書き直される。
最初のコメントを投稿しよう!