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季節は巡り、春。第一印象は、一言で言えば、ポメラニアンみたいなやつだった。
「中洲和也でっす! よろしくお願いします!」
中洲はきゃんきゃんと元気に吠え、会ったばかりの俺に尻尾を振った。
「先輩のお名前を聞いてもいいですか!」
「……植原綾人」
「植原先輩! へへ、良かったぁ。優しそうな人が教育係で」
十年に一人の天才なんていうから、どんな恐ろしい奴が来るかと思ったら……
確かに、180を優に超える長身と服の上からでも分かる強靭な筋肉を見るに、肉体的に非常に恵まれた選手なのは間違いない。
けど。
「最初に、うちの部のスローガンを教えておく」
「はい!」
「『切磋琢磨』だ。仲間同士が競争し、高め合い、技術的にも精神的にもより高いレベルへと成長してゆくという……」
「セッサタクマ! いいっすね、セッサタクマ」
「ったく、本当に分かってんのか?」
俺はハァと溜息を吐いた。教育係として先が思いやられる。
同時に、少しだけ安堵している自分もいた。こんな気の抜けた奴が相手なら、意外と良い勝負になるかもしれない。せっかく掴んだレギュラーだ、そう易々と譲れない。譲るもんか。
なんて思っていられたのは、練習で中洲のプレーを実際に目の当たりにする前までだった。
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