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もっと酷かったのは打撃練習だ。
打撃投手を務めるのは同期でエースの結城。「一年なんかに打たれてたまるかよ!」と打たれるのが仕事の打撃投手にあるまじき意気込みとともに、彼はマウンドに上がった。
結城は左投に加えフォームも変則的。初見での攻略は強豪校の四番にだって難しい。
きっと抑えてくれるはずだ。抑えてくれ……そんな儚い願いは、快音とともに打ち砕かれた。
中洲は豪快なスイングで結城の投げる球の真芯から少し下を打ち抜く。打球には綺麗なバックスピンがかかり、空というキャンパスに次々と白いアーチを描き出す。
どうやったらあんなに軽々遠くへ飛ばせるのか。少なくとも「三振だけはしないよう、とにかく転がせ」なんてせこい打撃理論に縋る俺には考えもつかないような理屈なのだろう。
「知ってるか。あれで野球始めたの、中学かららしいぜ」
誰かが言った。浮ついたような、高い声だった。
「嘘だろ? マジで味方で良かったわ」
今度は誰か分かった。俺と小一の頃から一緒に野球をしてきた、幼馴染だった。
味方、か。お前は良かったな、ポジションが違って。
そんな恨み言がつい口をつきそうになり、俺はグラブの手入れをするフリで目を伏せた。
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