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 寮に戻ってからも、さっきの先輩の言葉がずっと巡っていた。  本当のチームプレー。監督が俺を、中洲の教育係にした意味……くそ、分かんねぇ。  イライラに任せて乱暴に部屋のドアを開けると、最初に目に飛び込んだのは、荷物がパンパンに詰まった大きなボストンバッグだった。次に、ベッドシーツをやたら丁寧に整える中洲の姿。  なんだこれ。まるで、この部屋を出て行く準備みたいな。 「あ、先輩! お疲れ様です!」  中洲はいつもと何も変わらず、腰を直角に折った。かえって戸惑った俺の口から漏れたのは、「どうしたの」なんていう間抜けな言葉だった。 「俺、野球部辞めます」と中洲は贋物(にせもの)みたいな笑顔で言った。 「は? な、なんで」 「俺がいると、先輩の邪魔になっちゃうので」 「邪魔? 何言って……」 「俺、本当に先輩のこと尊敬してるんです。だからこそ嫌でも分かる。先輩が俺を見る目。俺が良いプレーをするたびにする、悲しそうな顔。これ以上、先輩にそんな顔させたくない。だから辞めます」  言うだけ言って、中洲はバッグを肩にかけた。 「ま、待て中洲。辞めるって、野球は?」 「別にここでなくても野球はできますよ。むしろ弱小校とかに行った方が、チヤホヤされて気持ち良いかも」  そう言ってまた笑う中洲。だけど、最後の方は声が震えていた。中洲は俯いて歩き出す。出口に突っ立ったままの俺とすれ違い、部屋を出る。  何してるんだ、止めないと。  だけどどうしても声が出ない。俺の中の汚い部分が、正しさを見て見ぬフリする。このまま行かせてしまえと耳元で囁く。  中洲の足音が止まる。振り返ると、中洲もまたこちらを振り向いて立っていた。中洲がゆっくり顔を上げた。  あ。 「短い間でしたが、お世話になりました」 「行くな、中洲」  声を出したのはほとんど同時だった。え、と聞き返す中洲に、捨てられた子犬のような泣き顔をした中洲に、俺はもう一度繰り返す。 「行くな。行くんじゃない、中洲」
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