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なまえ
それからわたしたちは部屋を出て、大家さんが住む部屋に向かっていく。お年寄りの大家さんは耳が遠いから海里さんが少し大きな声で話している。
「はあ?」
「101号室の人なんてなまえなんだって聞いてるんだ」
玄関扉に表記されているはずの紙はなくなっていた。
「海里、聞き方が悪いよ。この子を保護したくて聞いてるんです」
やんわりした声で玲哉さんが訊ねると、大家さんはわたしを見て驚いた視線を向けていた。
玲哉さんのリュックから髪ゴムを貰い玲哉さんが、わたしの前髪を結んでくれた。前髪がちょんまげみたいになっている髪型に喜んでいた。
「村上さんだよ。こんな子いたんだねぇ~」
わたしのことはじめて見るような言い方に海里さんは玲哉さんと顔を見合せ苦笑していた。
*
それから夕暮れの秋の空の下わたしを真ん中にして右側に玲哉さんが左側に海里さんが並び手を繋ぐ。
「きみなんて呼べないからさ、名前教えてくれない?ぼくは四ツ橋玲哉だよ」
「俺は三神海里だ。きみの名前はなんだ?」
この二人なら教えてもいいと思えたのはわたしに優しくしてくれただけじゃない。
「むらかみかなた」
一緒に帰ろうって言ってくれたからだよ。
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