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殿の帰還
◇◆◆◇
ここは薩摩藩某所、半農の武士が2人、町の片隅で立ち話をしている。
背の高い方が古田基成、低い方が薪方惣五郎という名だ。
先日、参勤交代を終えた殿が藩に戻ってきたのだが、その折に見るからに垢抜けた若衆を引き連れていた。
「おい、見たか? 殿が連れ帰ったあの若衆」
「ああ、見た、さすが殿だ、なかなかの美形であった」
「やはりお主もそう思うか」
「そりゃ当然だ、江戸には美形が沢山いるからな、で、あの若衆はなんでも陰間茶屋にいたとか」
「らしいな、まぁー殿の事だ、向こうじゃかなり遊ばれていたんだろう」
「ああ、それはそうだろう」
「ところで古田殿、お主はどうされる」
「決まっておる、書をしたためる」
「そうか、まぁ、まだ単なる囲い者だ、今のうちに動かねば、役職についたりしたらもう手出しは出来ぬ、我らは江戸には行く機会はなかろう、せめて恩恵に預かりたい」
「ではどちらが落とせるか、競ってみるか?」
「面白い、なにを賭ける?」
「そうだな……、酒を一升、それでいかがかな?」
「かまわぬ、それでいこう」
2人は若衆に恋文を出すつもりでいる。
どちらが若衆の気を惹き付ける事ができるか、賭けをする事になった。
「あっ、おい、マズいぞ」
……と、不意に薪方が慌てだし、古田に声をかけた。
「お、おお……」
向かい側から美しい女人が歩いてきたのだが、2人はすぐさま向きを変え、商家の壁の方に向いて女人から顔を背ける。
ここ薩摩では、武士は女人の姿を見てはならぬと、暗黙の取り決めがあった。
その為、武士は女人とすれ違う度に顔を背け、できるだけ近づかぬように距離をあけるのだ。
女人が通り過ぎた後、2人は分かれてそれぞれの屋敷に戻った。
古田も薪方も、40を前にして未だに独り身である。
似たような境遇の2人だが、古田の父は勘定方で城勤め、薪方の父は既に他界している。
屋敷に戻ると、古田は早速小さな机に向かって筆を握り、書をしたためた。
熱い想いを込めた言葉を書き連ね『是非一度お会いしたく、それは拙者が真から望む事である、是非ご一考お願いしたく候う』と結んだ。
この書を出して若衆が興味を持てば、屋敷に使いを寄こす筈だ。
書は使用人に届けさせるが、手紙だけでは物足りぬ。
手土産を添えて渡す事にした。
一方、薪方も同様に手紙を書いて使用人に託した。
結果は直ぐにはわからない。
2人は農作業をし、お勤めをこなしながら、首を長くして返事を待った。
◇◇◇
そうして半月が過ぎた頃、古田の元に使いがやってきた。
古田は上手くいったとほくそ笑んで書を受け取った。
一旦懐にしまい込み、庭の片隅に歩いて行く。
枝振りのよい松の木の陰に立ち、こっそりと書を出して開いてみた。
そこには達筆な文字が綴られているが、内容は期待通りのものだった。
若衆は会いたいとの事。
名は龍之介と書いてあった。
恐らく、茶屋勤めの時に使っていた名前に違いない。
「良い名だ」
古田は凛々しい名前をいたく気に入った。
薪方との賭けは勝ったも同然。
気分よく薪方に報告しに出かけて行った。
薪方は番所に詰めている。
古田は建物の中に入って薪方を探し歩いた。
平屋のだだっぴろい建物だ。
なかなか見つからなかったが、あてもなく廊下を歩いていたら、薪方が前から歩いてきた。
「おお、古田殿」
「ああ、探したぞ」
2人は互いに歩み寄って足を止めた。
「さっそくだが、例の若衆……承諾したぞ」
古田は得意げに切り出した。
「ん、そうなのか? 変だな」
しかし、薪方は首を傾げて怪訝な顔をする。
「変とは、どういう意味だ?」
「実は拙者も返事を貰った、お主と同じで会うと書いてある」
薪方も返事を受け取っていたらしい。
「なに? それは本当か?」
古田は驚いて目を見開いた。
「ああ、ちょっと待たれい、ここに……」
薪方は懐をゴソゴソと探って書を出した。
「ちょっと見せてくれ」
古田は手を出して書を受け取った。
すぐに開いて読んでみたら、自分にきた手紙とは若干内容が違うが、似たような事が書かれている。
やはり達筆な文字で、名は苗字のみで植木と書かれてある。
自分には源氏名だと思われる名前が書かれていたが、苗字があるという事は、殿は若衆を既に誰かの養子にしたという事か。
しかしながら、古田と薪方両方に承諾する手紙をよこしたのが謎だ。
「これは……どういう事だ?」
2人揃って首を傾げた。
「ふむ……、よくわからぬが、陰間茶屋に勤めていただけに、色を好むのかもしれぬな、だから古田殿と拙者、両方とも承諾した」
すると薪方が、顎を擦りながら言った。
「ああ、なるほど……、有り得ない事はないか」
古田は納得した。
「それならば……、賭けは引き分けという事だな、古田殿、こうなったら……互いに好きにやろう、拙者は具体的な日時を書いて呼び出してみる、お主もそうされたらいい」
「わかった、では勝負は引き分け、後は成り行きに任せるとするか」
「ああ」
2人は顔を見合わせて頷き、古田は今来た道を戻って行った。
それから2人は、若衆に呼び出しをかけるべく、再び書をしたためた。
書き上げたら、古田は即座に龍之介の元に使いを走らせた。
さて……。
何かと気忙しい2人だが、更に10日あまりが過ぎたある日、この日は生憎の雨となっていた。
ここは城下町の一角、とある茶屋。
古田はちょうど昼を過ぎた頃、二階の一番端の座敷にいたが、偶然にも、薪方も二階の中央に位置する座敷にいた。
2人は来た時間がズレていたので、顔を合わせてはいない。
故に、互いに同じ茶屋にいる事を知らなかった。
そんな中、茶屋へ腰に刀を差した若武者がやってきた。
若武者は番傘を折り畳んで水を切り、わきに立てかけて茶屋の中へ入った。
帳場には小間使いの小僧が座っている。
「坊主、古田殿はどの座敷におられる」
若武者は古田に会いにきていた。
「はい、二階の突き当たり、角の座敷におられます」
小僧はペコりと頭を下げて言った。
「分かった、ではあがらせて貰う」
凛々しい顔立ちをしたこの若武者は剣術に長けていて、示現流の達人であった。
若武者は草履を脱いで茶屋に上がり込むと、まっすぐに二階へ上がって行く。
古田は今か今かと、ソワソワしながら待ち侘びていた。
「すまぬが、古田殿はこちらにおられるか?」
若武者は目的の座敷の前に立って、障子越しに声をかけた。
「ああ、どうぞ遠慮なく入ってくれ」
古田は予想していたのとは違って『やけに野太い声だな』と思ったが、とにかく座敷に入るように促した。
「失礼仕る」
若武者は障子を開けて中に足を踏み入れた。
「えっ」
古田は自分が目にした龍之介とは全く違う人物の登場に唖然とした。
「貴殿が拙者を気に入ったとの事、熱き想い、確かに受け取った」
若武者は恋文を読んで心を動かされ、古田と会う事を楽しみにしていた。
ところが……古田にしてみれば青天の霹靂だった。
あの若衆を待ち侘びていたのに、見るからに屈強な若武者が現れ、困惑しきりといった表情になっている。
「拙者は殿が連れ帰った若衆に手紙を出したのだが……、もしや」
使いに出した使用人が屋敷を間違えた……。
そうとしか思えなかった。
「なんと……、もしや、間違えて書を渡したと……そう申すのか?」
若武者は腰から刀を抜いて古田と向かい合わせに座ったが、眉間に皺を寄せて聞き返す。
「あ、いや……、どうやら……そうらしい、すまぬ」
古田は思わぬ事態に狼狽したが、若武者の不服そうな顔を見てマズいと焦った。
「謝って済まされると思うのか? 拙者は貴殿に会う為にわざわざ足を運んだのだ、それもこれもあの書を読んで心を動かされたからだ」
若武者は古田と契りを結ぶつもりでやってきた。
いくら人違いでも、そうあっさり諦めるわけにはいかない。
「申し訳ない、こちらの手違いだ……、どうかお許しを」
古田は頭を下げて謝った。
「いいや、許さぬ、間違いだとしても拙者は貴殿を気に入った、だとすれば……付き合って貰うしかない」
しかし、龍之介は後戻り出来ない心境になっていた。
剣の修行にあけくれ、恋とは無縁な生活をしてきた。
そこに舞い込んだ一通の恋文。
古田の手紙は殺風景な日常に華やかな色を添え、張合いを持たせてくれた。
若武者は日々の鍛錬にも一層力を入れていた。
「えぇ……いやあの……」
とはいえ、古田にとっては泣きっ面に蜂だ。
相手を間違えた事自体ショックだったが、この若武者と付き合う気になれない。
古田は可愛らしい若衆は好きだが、逞しい若武者は好みではなかったからだ。
「なんだ、嫌なのか?」
しかし、若武者はギロッと睨みつけて聞いてくる。
「い、いえ……そんな事は」
古田は決して腕が立つ方ではない。
いかにも腕がたちそうな若武者を相手に、喧嘩をする勇気はなかった。
「古田殿、これもなにかの縁だ、お主は文才がおありだ、現に拙者を感動させたのだからな」
若武者は古田が怖気付いてるのを見抜き、さっきとは打って変わって穏やかに話しかける。
「は、はあ……」
古田は力なく答えた。
「あのような心に迫る手紙を貰ったのは初めてだ」
若武者は真面目な顔で話をしたが、本気でそう思っていた。
「あ、はい……」
だが、古田は蛇に睨まれた蛙と化している。
「古田殿、今から拙者と契りを交わそう」
若武者は古田の手を掴み、ぎゅっと握って言った。
「い、いや、その……」
自分に非があるし、付き合うのは仕方がないと思っていたが、今この場で契るのは厳しいものがある。
断りたかったが、古田には断る勇気がなかった。
「拙者はそのつもりできた、体を洗い、香で燻した着物を着ている」
若武者は古田と契る気満々だ。
「待ってくれ……、お主、名はなんと申すのだ?」
古田は動揺して咄嗟に名前を聞いた。
人違いなら薪方から聞いた苗字とは名前が違う筈だ。
「ああ、すまぬ、まだきちんと名を名乗ってなかったな……、拙者は島津龍之介と申す」
若武者ははにかんで名を明かした。
「え、島津……、まさか殿の血縁者では?」
それを聞いて古田は愕然となった。
島津と言えば……自ずと藩の頂点に立つ殿が浮かんでくるからだ。
「遠縁になるが、そうだ」
龍之介はやはり血縁者だと言った。
「えぇ……、そんな畏れおおい」
人違いなどどうでもよくなり、古田は益々萎縮した。
「心配なさるな、遠縁だと申したであろう、殿の事を気にする事はない、さ、脱ぐぞ」
龍之介と名乗った若武者は、古田が気乗りしない事をわかっていたが、構わずに羽織を脱いで帯に手をかける。
座敷に入って古田を見た時、いかにも優男な古田を見て想像していた通りだと思った。
龍之介は優男が好みだったので一目惚れしてしまい、無理にでも関係を持ちたかったのだ。
「あ……の……」
古田にはなすすべがなく、龍之介が裸になるのを見守るしかない。
鍛え抜かれた上半身が晒され、次に足が露わになった。
龍之介は褌だけの姿になり、脱いだ着物を隅に寄せたが、香の匂いがふわりと古田の鼻を掠めた。
「古田殿……」
龍之介は膝をついて座り、古田の手をそっと握った。
「あっ、あの……」
筋骨隆々な肉体を前に、古田はシッポを巻いた犬となっている。
「こちらへ」
龍之介は古田を引っ張って布団へ導いた。
こういった出会い茶屋は、そういった事が目的で来る場所だ。
予め布団が敷かれている。
「わ、わかった」
こうなれば……腹を括るしかない。
古田はゴクリと唾をのみ込み、自分も着物を脱いでいった。
龍之介はその様子をじっと見ていたが、古田は自らの体を見て恥に感じた。
「あまり見ないでください、拙者は……島津殿、お主のような立派な体はしておらぬ」
龍之介は肉体もさることながら、自分よりも若く、肌の張りが違う。
恐らくひと回り位は年下だと思った。
「なにを申される、色白で綺麗な肌だ、羨ましい」
けれど、龍之介は色白でややぽっちゃりとした古田の体に惹かれていた。
自分より歳上だと思ってはいたが、自分は日々の鍛錬やら何やらで、若くして傷だらけの体だ。
古田の滑らかな肌が羨ましく思えた。
互いに褌姿になった後、いよいよ2人して布団に入ったが、受ける側の龍之介が下になっている。
古田は変な気分だった。
今まで契りを結んだ相手は、皆稚児の名残を残した若衆ばかりだ。
こんな屈強な若者を抱くのは初めてだったが、どういうわけか、肌が重なったら股間が熱くなってきた。
龍之介は首に高枕をあて、古田を導いて口吸いをした。
古田は背中を抱かれて昂り、龍之介の胸板を撫で回していった。
厚い胸板に顔を寄せたら、日焼けした肌に見合った褐色の乳輪がある。
真ん中の小さな突起は起立しており、龍之介が興奮している事を示している。
感情は伝染する。
古田は龍之介の勢いに触発されて、突起を舌で舐め回していった。
龍之介は眉を顰めて悶え、古田の柔らかな尻を掴んだ。
苦しげに息を乱しているが、男らしい顔が歪むのを見たら、古田は今までに感じた事のない興奮を覚えた。
勃ちあがる股間を龍之介に押し付けてやると、龍之介は手を伸ばして硬く盛り上がった褌を握った。
「うっ、島津殿……」
今度は古田が顔を顰めたが、龍之介はびっくりしていた。
「古田殿、貴殿はこんなに」
古田のそれは予想に反してかなりの大きさだったからだが、龍之介は無性に口淫をしたくなった。
それを伝えると、古田は快諾して上から退いた。
それから徐に褌を外していったが、現れたのは馬並みと言ってもいい程のイチモツだ。
古田が布団の上に座ると、龍之介は矢も盾もたまらず、すぐさま屈み込んで竿を頬張った。
「き、気持ちよい」
舌が敏感な先端を這い回り、古田は目を細めて吐息を吐いたが、何気なく龍之介の尻を見た。
引き締まったいい尻をしているが、この尻なら菊門は窮屈に思える。
想像しただけで竿がビクつき、急速に高みに駆け上がっていく。
龍之介は口淫をやめてスッと体を起こした。
「古田殿、マズい……、お主の猛りが限界に達しておる、最早猶予はない、いざ契ろうぞ」
自ら褌を外して力強く古田に言ったが、屈強な肉体をしているわりには、股間のモノは古田より小さかった。
古田は自分の体に自信がなかったが、それを見て密かに自信を回復していた。
2人はしっかりと抱き合い、もつれあって布団の中に埋まった。
互いに十分昂っている。
古田は横へ手を伸ばし、再び起き上がって脱いだ着物から通和散を取り出す。
片手で包みを開き、粉を口に入れて溶かし、溶かした物を指につけて龍之介の菊門へ塗りたくった。
「うう、古田殿……」
龍之介は指の感触に身悶えする。
古田も堪らなくなって急くようにイチモツを握り、先端を菊門へ押し当てた。
「いくぞ、よいか?」
「かまわぬ、壊れるほど……やってくれ」
声をかけたら、龍之介は熱のこもった眼差しで答える。
「では……」
古田は龍之介の上に被さり、腰に力を入れて竿を中へ押し込んでいった。
大きな先端が菊門をこじ開けて中に入り込むと、龍之介は圧倒的な存在感に息が詰まり、古田の背中に指を突き立てた。
「う、くっ……、す、凄い」
体が強ばって脂汗が滲み出してきたが、それは古田も同じだった。
鍛えられた尻の菊門は、案の定、噛みちぎる勢いで竿に食らいついてくる。
「あっ、うっ……、くっ」
グイグイ押して中に沈めていくと、軋みながら奥へ入っていき、菊門の襞と内部の粘膜が同時に締め付けてきた。
「はあ、はあ、ふ、古田殿……」
龍之介は腹の中がいっぱいになり、息を乱して古田を呼んだ。
「すまぬ……、少しばかり我慢してくれ」
古田は襲い来る衝動を抑えきれず、ひとこと言って腰を上下に揺らしていった。
「はっ、うっ、あっ!」
龍之介は古田にしがみついて猛りを受け止めたが、古田のイチモツは中をゴリゴリ擦りあげ、自身のイチモツが昂って子種を噴き出した。
「はあ、はあ、もう出る、中に……よいか?」
そのせいで菊門の締めつけが更に強くなり、古田は限界に達してしまった。
「き、きてくれ……」
龍之介が答えると、2人はひと塊となって大きく揺れ動き、古田はグッと深く突いて動きをとめた。
「ふ、ふはっ、うう、古田殿……」
龍之介は腹の中を満たす熱に浮かされ、逞しい腕で古田を抱き締める。
イチモツが大きい分ハッキリと脈動を感じるのだが、ここ暫くご無沙汰だった事もあって、狂わんばかりに相当感じていた。
それは古田も同じであった。
「これは……たまらぬ」
菊門がまるで別の生き物のように蠢き、種を飲み干している。
こんなのは初めてだった。
2人は深く体を交えた状態で抱き合い、夢中になって口吸いをしていた。
やがて熱が冷めて体を離したが、古田は改めて言っておきたかった。
「島津殿、これからも拙者と付き合って貰えぬか?」
初めは嫌だった筈だが……いざ体を交えてみて、龍之介とはウマが合うと感じた。
ハキハキと物を言うところも悪くない。
ごく自然に龍之介と付き合いたいと思った。
「ああ勿論……、拙者は貴殿と契った、これからは貴殿ひとすじに生きる」
龍之介は強引に迫って古田と契りを交わしたが、内心嫌われたのではないかと不安になっていた。
それゆえ、本当に良かったと、心から安堵して約束を口にした。
◇◇◇
その頃、薪方は迫り来る高みに苦悶しながら体を揺らしていた。
「あっ、あっ」
組み敷いているのは、本物の若衆である龍之介だ。
若衆と若武者は偶然名前が同じだったのだが、薪方の方は間違いなく書を届けていた。
18になったばかりの龍之介の菊門に、己の猛りを繰り返し打ち込み、今まさに絶頂を迎えるところである。
「ゆくぞ……」
最後に思い切り突いて子種を放った。
「ひあっ、薪方さまぁー」
龍之介は両足を薪方の腰に絡めて喘ぎ声を上げる。
「はあ、はあ……」
薪方は龍之介の中に好きなだけ出したが、今ひとつ満足感を得られずにいた。
菊門がかなり緩いのだ。
陰間茶屋で客をとっていたので、致し方ないと言えばそうなのだが……。
「もっと……欲しい、薪方様ぁー」
実の所、龍之介は殿に隠れて周りの家来達と無節操に契っていた。
それなのに、薪方にまだ突いてくれとせがむ。
薪方はこれで終わりにしたかったが、誘った手前、やらねばならぬ。
仕方なく二回目に突入した。
古田ともうひとりの龍之介は、先に茶屋を出た。
2人は楽しげに笑みを浮かべ、雨上がりの城下を歩き出す。
しかし、薪方の苦行は果てしなく続いていた。
結局、交わりは夜まで続き、薪方は精も根も尽き果て、茶屋を出た時には次に会う約束を交わす気力はなかった。
◇◇◇
薪方と若衆の龍之介は、その後二度と会う事はなかった。
だがある日、薪方は古田が若武者と一緒に歩いているのに出くわした。
「お主……、そちらの武人は……」
怪訝な顔で古田に問いかける。
「お初にお目にかかります、拙者は島津と申します、古田殿とは縁あってお付き合いする事になりました」
それには龍之介が答え、迷う事なくハッキリと言った。
「島津……」
薪方も古田同様、名前を聞いて驚いた顔をする。
「殿の遠縁に当たりますが、たいした者ではありません」
龍之介は笑顔でさらっと流した。
「あ、ああ、そうなのか、にしても古田殿……お主は若衆と会ったのか?」
薪方はあれから古田と話す機会がなく、未だに若衆との事を聞いてなかった。
自分は呆気なく別れたのに、古田は藩主の遠縁と名乗る血気盛んな若武者を連れている。
本来の目的だった龍之介の方は一体どうなったのか、気になった。
「拙者はこの島津殿に間違えて手紙を出したのだ、しかし……それでよかったと思っている」
古田は簡単に事情を説明すると、生き生きとした表情で答える。
「え、そうであったのか……」
薪方は今ひとつ状況が呑み込めず、ポカンとしていた。
「まぁ、機会があったらまた話す、すまぬが、今は急ぐのでまただ」
古田はせっかくの逢瀬を邪魔されたくなかった。
「あ、ああ、そうか、わかった」
薪方は呆気にとられたままだったが、これ以上引き止めるわけにはいかない。
歩き出した2人の背中を見送ったが、凛々しい若武者の背中を見ながら、いつまでも首を傾げていた。
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