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戦場の食卓
「今日の晩ご飯は焼肉よ~!」
母のその言葉が、戦い開始のゴングになる。
食べ盛りの男4人の間でバチッと火花が飛び散った。誰が一番多く肉にありつけるか。
末っ子だからって負けていられない。
おれは3人の兄を鋭く睨みつけながら、焼き肉プレートに一番近い場所を目指して走り出していた。
うちは6人掛けの大テーブルの真ん中に鉄板を置く。一番いいのは真ん中の向かい合った2席。あとはどこに座ってもあまり変わらない。
一番テーブルに近いソファーに座っていた次男の杏が、背もたれに手をついて飛び越え、手前の真ん中の席に座った。次にプレートに近いのは次男の正面だけど、そこに行くにはテーブルを回りこまなければいけない。
次にテーブルに近いのはおれだ。いける!
背後からの気迫。
おれはほぼ野生の勘で態勢を低くすると、おれを捕まえようとしていた長男の赤司の腕が空を切った。
危機一髪だ。おれはドクンと大きく心臓を跳ねさせてから、それでも足を動かしてテーブルを回りこんだ。
狙いの場所に手を伸ばし、引いた椅子に飛び乗った。
いい席を失った赤司と三男の来衣露は途端に失速し、深いため息をついた。
「負けた負けた」
「くっそぉ、もうちょっとで実取を捕まえられそうだったのに。すばしっこい奴め」
「へへっ」
赤司に褒められたおれは鼻の頭をかいた。
赤司は杏の右隣、来衣露はその正面でおれの左隣に座った。
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