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「ほら、食べたいものは自分で焼きなさい」
母は肉や野菜を大量にテーブルに運んできた。
おれたちはさっそく選り好みせずに鉄板に乗せていく。
各々好きなものを自分の近くに寄せて大事に育てる。
「美味しくなれよ」
テーブルに頬杖をつきながら杏が肉に話しかけた。
本当の争奪戦はここからだ。
しばらく肉や野菜が焼けるのを待つ間、俺たちは無言でお互いを牽制し合っていた。
無駄話などしない。
笑顔を振り巻いて油断を誘うのもいいけれど、今から戦う相手には通用しない。
肉が焼けるいい匂いが漂ってくる。
タレと米の準備は万端だ。
焦げないように適当なところで肉や野菜をひっくり返すことも忘れない。
「いつまで睨めっこしてんの。そろそろ食べてもいいころじゃない?」
母の声がまたもゴングの代わりになった。
おれたちは一斉に鉄板に箸を向けて構える。
素早く箸を突き出し、無遠慮に肉を奪い始めた。
誰が育てたかなんて関係ない。ちなみに一番うまく肉を育てるのは杏だ。本人曰くちゃんと声を掛けながら焼いてるおかげ、とのこと。
そんなだからあらゆる方向から肉を狙われる。
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