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「あ、ちょ! オレが育てた肉!」
杏の悲鳴など誰も気に留めない。
杏は慌てて自分のさらに肉を積み上げ、勢いよくかきこんだ。
「そんな食べ方したら喉に詰めるわよ。ったく、もうちょっと上品に食べられいないものかしら」
母が呆れた目でおれたちを見ていた。
母は父が仕事から帰って来てからご飯を食べるだろう。
こういう兄弟間の争奪戦が激しい時は一緒に食事をとりたがらない。
「あ、おれが育てた野菜!」
「野菜を育てるのは実取が一番うまいからな」
野菜なんて誰が焼いたって同じでしょ。
そう思うのに、おれのテリトリーからピーマンやキャベツが消えて行く。
しかたない。こうなったら……。
好物のシイタケを囲っている来衣露のテリトリーに箸を伸ばした。
「あっ! 実取てめっ!」
「ふー、ふー。はふはふ、うま」
シイタケを焼肉の甘辛いタレに付けて、米と一緒に頬張る。
ジュワッと広がるタレが米にも絡んで美味い。
「こっいつ! 肉よこせ!」
「あ! 皿から取っていくのは反則!」
おれは来衣露の手が届く前に茶碗を遠ざける。体で茶碗を隠すようにして奪ったばかりのシイタケや肉を米と一緒に頬張った。
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