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石工見習い
朝の仕事が早くに終わると、小夜は幸に断り一足先に飯場に向かった。背負ってきた野菜を飯場の井戸の脇に置き、幸が来るまで石切り場を歩く。まだ石工達も来ていない。
大きな石の切り出し現場は立ち入り禁止だが、遠くからでもその壮大さは見て取れた。またそれとは別に、割れて掘り出されたような小さな石が乱雑に置かれている場所があった。
「お小夜、早いな」
後ろから声がした。
振り向くと貫太が立っていた。
貫太は石工見習いをしている少年だ。
「頭の一番若い弟子なんだ」
初めて会った時に、そう誇らしそうに言った。
まだ働き手には早いが、母一人子一人のため頭について修業を始めたのだという。
夫を失った幸が飯場を任され、父親を亡くした貫太が見習いとしてわずかだが給金をもらえるのは、里の相互扶助によるところが大きい。
「いいところだね」
最初は山と石しかない、なんとも殺風景な場所に思えたこの里が、優しい色に染まって見えた。
貫太は小夜に先輩面をしたいらしく、頭や石工達に習ったことを小夜に教えてくれた。
「俺達石工集団はすげえんだぜ」
あるとき、貫太が自慢気に言った。
「どうすごいの?」
「大きな石垣を造るとするだろ。一つ一つがこんなにでっかいんだ」
そう言って貫太は両手両足を大きく広げて飛び跳ねる。
「それを頭が中心になってこの山から切り出すんだ。するとな」と、貫太はまるで内緒事のように小夜の耳に小さな声で囁く。
「切り出された石は隙間なくどこもがぴたりと合って、紙一枚も通せないほどなんだぜ」
「へえ」
正直、それがどうすごいことなのかわからなかったが、貫太の興奮が伝わってきて小夜は笑顔になった。
「すごいね!」と小夜が叫ぶと、貫太も「すごいだろ!」と答え、夕陽が染めた茜色の空に明るい笑い声が響くのだった。
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