お駄賃

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お駄賃

「頭、何言ってなさるんです。小夜はただ色で分けてるだけですよ」  幸が慌てる。 「いや、お小夜ちゃんは石の知識があって見分けてるとしか思えねえ」  石の見分けは石工でも難しいという。しかし合わせる石を間違えると、硬度や耐久性が違ってくるためとても大切なのだ。 「たまにいるんだ。自然と見分ける力のある奴が」 「小夜がそうだっていうんですかい?」  幸が驚いたように言った。 「どうだい、お小夜ちゃん。手が空いたとき、ここで石の見分けをやっちゃくれねえか。俺がこういうのが欲しいと見本を示すから、それに近い石を探して印を付けてくれ。少しだが駄賃も出せるぜ」 「やる! やります!」  それが駄賃になると聞いて、小夜は目を輝かせた。  その日から小夜は、時間があると石を見分ける作業をした。貫太が助手についてくれた。  この里のほとんどの石は全体的に灰色で、その中に光る粒が入っているもの、長い線のような模様が入っているものなど少しずつ違った。また灰色でも全体がほかより白っぽいものがあって、持ってみると濃い色の石よりも軽いことがわかった。  これをきっかけに、小夜は飯場での仕事を終えて里に戻ると、貫太と一緒に石細工職人の元を訪ねるようになった。  自分が見分けた石がどのように加工されていくのか知りたくなったのだ。  精巧な彫刻、接着する接地面を凹凸に加工してずれや落下を防ぐ技法。皆が丁寧に説明してくれた。  実はこれに夢中になったのは貫太の方で、時間があれば石細工職人の一人である老人の家に通うようになっていた。  小夜は訪ねた先の皆から、「小夜坊が石見をしてくれるようになってから、仕事が(はかど)るぜ」なんて声をかけてもらえるのも励みになった。  ただ──。皆が小夜を小夜坊と呼ぶのが不思議だった。幸と頭、貫太以外の里の皆が小夜をそう呼ぶのだ。それが嫌なわけではないが、揃ってなのが落ち着かない。  頭は約束通りにお駄賃をくれた。それを幸に差し出すと、「なんだい。これはあんたのだよ」と受け取ってくれない。  それなら貯めて、いつか幸のために何か買おう。  行き場がなかった小夜に、安寧の地を与えてくれた幸。最初に貯まったお駄賃は、母のようにそこにいてくれる幸に使おうと決めていた。  いつの間にか幸の中で、母の面影は幸の優しい笑顔になっていた。  本格的に寒くなり、飯場でも温かいものを温かく出すようにした。汁椀に熱い汁をよそって渡していると、石工達が「そろそろ雪だな」と話し、「山の冬は寒いから、小夜坊も気を付けろよ」なんて、小夜のことまで気遣ってくれた。  そんなある日、昼の片付けが終わると幸が珍しく、「小夜、今日は先に帰っておくれ。ちょっとあたしは寄ってくところがあるからね」と言った。    少し思い詰めたような様子の幸に、どこに行くのかと聞くこともできず、小夜は素直に肯いた。
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