賽の番人

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賽の番人

 暗くなって幸は戻ってきた。 「おかえりなさい」  そう言ってから、幸の様子に小夜は驚く。 「どうしたの?」  寒い場所にずっといたのか、顔は青白く身体は冷たい。 「あったかいものを」  小夜は囲炉裏に沸いていた白湯を茶碗に入れて幸に差し出した。  その日の幸はいつになく口数が少ない。ただ、夜布団を並べて横になると、ひゅうひゅう聞こえてくる冷たい風の音に、「今夜、は来るかねえ」と呟いた。 「さいのばんにん?」  小夜には何のことかわからなかった。  一晩中、外を吹きすさぶ冷たい風が薄い板戸に当たって音を立てていた。  翌朝、板戸の隙間から冷たい風が入ってくるのを感じて小夜は目を覚ました。まだ外は薄暗い。  ふと隣を見ると、既に幸は起きて着替えたあとがあり姿がない。 「幸さん?」  板戸が少し開いているのは幸が外に出たからのようで、小夜は心配になって土間に降り外に出た。  遠くに、幸が飯場の方へ上って行くのが見えた。今日は石切場は休みだ。 (幸さん?)  小夜はそのまま幸を追って駆け出した。 「おい、お小夜、どこへ行く?」  走り出した小夜の後ろから声が聞こえた。石細工の師匠の家に朝の手伝いに向かう貫太だった。 「か、貫太さん! 幸さんが!」  それだけ言って、小夜は幸を追いかけた。  小夜は懸命に幸を追って山を上ったが、幸は飯場を過ぎてもまだ進む。そうしてしばらく行った先で、ようやく小夜は幸に追いついた。 (ここは……?)  最初に幸に出会ったあの河原だった。 「幸さん?」  幸は河原に座り込み、正面に積まれた石を茫然と見ていた。  最初はもっと積まれていたのか、それが崩れて四段の石が残り、その脇にいくつもの似たような形の石が転がっていた。 「どうしたの? 幸さん?」  再び小夜が後ろから声をかけると、やっと正気になった幸は振り向いた。 「ああ、小夜。ごめんよ。なんでもないんだ」  そう言うと立ち上がろうとして、またよろよろと崩れ落ちた。  そこへ、「幸さん、お小夜ちゃん」と野太い声がして、頭が若い衆を連れて上ってきた。後ろには貫太がいる。  小夜と幸の異変に気付いた貫太が頭に知らせてくれたのだ。
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