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賽の河原
「幸さん」
頭はそう言うと、幸の側に屈んで言った。
「あんたのそんなつらそうな姿は見てられねえ。佐代坊のことはもう──」
頭は幸の肩に手を置いて異変を感じ、幸の頬や額を触った。
「ひでえ熱だ。おい、幸さんを家へ」と若い衆に命じる。
「へえ!」
若い衆が幸を抱え上げた。
里に戻ると幸を布団に寝かし、頭の命で小夜は家の裏に集めておいた薪を取ってきた。貫太も頭の家におかみさんを呼びに行き、おかみさんが解熱の煎じ薬を持ってきてくれた。
囲炉裏に新しい薪を焚べ、時々額を冷やす手拭いを替えながら、四人で幸を見守った。
「頭。さいのばんにんって?」
小夜が幸から聞いた言葉を頭に伝えた。
「お小夜ちゃん、それに貫太。賽の河原って知ってるか?」
頭が話し出す。
二人は首を横に振る。
「子供が親より先に死ぬと行きつくところが賽の河原だ。そこで子供は先に死んだことを親に詫びて石を積むが、それを鬼が崩して邪魔する、そんな話があるんだ」
小夜と貫太は息を呑んで聞いていた。
「この山の河原がちょうど賽の河原に似てるっていうんで、いつからか賽の河原と呼ばれるようになった。十年前──」
頭の話は続く。
「この辺りで病が流行った。それで大人も死んだが、幼い命もたくさん失われた。貫太、お前の父ちゃんが死んだのもそのときだ」
頭の言葉に、貫太は肯く。
亡くなった子供の中に幸の一人娘の佐代もいた。まだ赤子だった。
亡くなった子供は十人。
「賽の河原に十段の石を積んでやらねば、子供達は山を越えてあの世に行けない。あの世に行かなければ生まれ変われない」と古老が言ったそうだ。
小夜ははっとした。
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