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河原の出会い
石積みの里は山中にあり、石を切り出し加工するのが生業だ。多くの石工が暮らし、石工集団を形成していた。
この山の石は加工がしやすい。灰色できめ細かく、白や黒の模様が入っていて、石垣のほか門柱、石塔、墓石などに重宝されていた。
山の石切場からさらに少し上った河原を一人の少女が歩いていた。
貧しい村から働き手としてほかの子と連れてこられたが、石工の里に女は要らぬと引き取りを断られ、連れてきた男に、「どうするか決めるまでその辺で待ってろ」と命じられたのだ。
河原では一人の女が石を積んでいた。
まだ夏の暑さが残る頃、女は少し汗をかきながら平たい石を見つけてきては一枚、一枚と重ねていく。
「おばさん、何してるの?」
「石を積んでるのさ」
女は答えた。少女の母親くらいの年恰好の女だった。
「見ればわかるよ。なんでそんなことをしてるのさ?」
十になった位だろうか。歳の割にしっかりした物言いに女は興味を持ったようだ。
「この辺りの子ではないね?」
「この里で奉公ができると言われて来たんだ。なのにさ……」
少女は悔しそうに小石を蹴る。
「女は役に立たないと言われてあたしだけ断られた。あたしはこれからゆうりってとこへ連れていかれるらしい」
遊里の意味も知らない幼さに、女は胸が痛んだ。
「名はなんと言うの?」
「小夜だよ」
「さよ……」
女はその名に何か感じた様子で、「飯炊きや畑仕事はできるかい?」と小夜に聞いた。
「うん。もちろん」
「私は石工の飯場で飯炊きをやってる。その手伝いができそうかい?」
「寝る場所がもらえるならなんだってやるよ!」
「ならばおいで」
女は立ち上がり、膝のあたりの砂を払うと歩き出した。そのあとを小夜は嬉しそうについて行った。
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