育成ゲーム

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育成ゲーム

私たちの担任が産休に入った。 そして新しく担任を受け持つことになった先生は、初日からとんでもないことを何でもないことのように言ってのけた。 「みなさんこんにちは、桜木(さくらぎ)康太(こうた)です。前から数学を受け持っていましたら、知っている人は知っていますね。先に申し上げておきますが、私にとって学校はリアル育成ゲームの場でしかありません。ですから、あまり過度な期待をしないように」 教室はざわついた。 前々からその整った顔立ちと物腰柔らかな話し方や表情が、特に女子生徒たちに人気だった。 それがさらっと爆弾発言を投下したのだ。 冗談には聞こえなかった。 普段のように微笑を浮かべていたが、目は笑っていないように感じた。 たぶん、間違いではないと思う。 私は2列目の席で、先生の顔がよく見える位置で先生を見ていたのだから。 「ほら、静かにしてください。朝の会を始めましょう」 先生は手を叩いて話題を変える。 教室がしんと静まり返り、先生の話に耳を傾ける。 重大な話をしているわけではない。今日の2時間目と3時間目が先生の都合で入れ替わるという話。 それだけなのに、まるで重大発表でも聞くかのように、生徒たちは黙り込んでいた。 今までだったら朝の会でこんなに静まり返っていたことはない。 桜木先生の授業中だって、煩かったわけではないけれど、こんな冷めきった空気ではなかった。 いったいこれからこの教室がどうなるのか。 私たちはこの先生に何をされるのか、誰も理解できず疑心暗鬼に満ちていた。
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