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翌日、昼休みになると同時に和惟がいなくなった。どこに行ったのかと探していると、なぜか平松を連れて戻ってきた。女子はイケメンがふたり揃っていることに色めき立っている。でも和惟は無表情だし、平松は眉根を寄せて不機嫌そうなので、仲良くなったという様子ではない。
「真弥、お弁当食べよう」
真弥に笑顔を向けてくれる和惟とは正反対に、平松は不快さを全面に表している。それでもお腹も空いたし、和惟が真弥にはいつもどおりなので、三人でお弁当を食べることにした。
「はい、真弥。あーん」
「……」
なんとなく、ちらりと平松の様子を窺う。馬鹿にしたように口角を歪めていて、腹立たしさで口を開ける気になれない。
「自分で食べられる」
和惟がこれ以上馬鹿にされるのは嫌だ。和惟にこんなことを言うのははじめてだけれど、口から滑り出た。和惟は昨日のように驚愕の表情を見せて、力なく箸を置いた。
真弥が和惟にずっと甘えていたら、ますます和惟が平松に馬鹿にされる。自分自身のことは我慢するけれど、和惟が悪く思われたり言われたりするのは我慢できないから、自分のことはなるべく自分でやるようにしないといけない。
箸を取って、自分でお弁当を食べる。平松はそれでも嘲笑するように口角をあげていた。
そのあと昼休みのあいだずっと和惟は無言だった。帰りのときもまだそのままで、真弥が話しかけてもすぐに会話が途切れる。
「和惟、どうしたの? 具合悪い?」
「……今日も平松が気になった?」
暗い顔をしているから平松どころではなさそうなのに、そんなことを聞く。できるなら思い出したくない人間だけれど、和惟が言うから頭に浮かべるとまたむかむかと気分が悪くなる。
気になるに決まっている。陰であれこれ言うタイプには見えないけれど、和惟のことを悪く言っていたらと思うと、どうしても腹が立つ。
「少し気になる」
和惟は瞠目して足を止め、なにかをこらえるように唇を噛んでいる。真弥の知らないところでなにか言われたのだろうか。和惟のこんなつらそうな顔は見たことがない。
「和惟?」
「真弥がそこまで言うなら協力するよ」
「協力?」
聞き返しても、和惟には聞こえていないようで、彼は考え込むように黙ってしまった。隣を歩きながら、なんだか様子がおかしいな、と首をひねった。
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