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「真弥、あーん」
いつもの和惟に戻ってくれて、お弁当を食べさせてくれる。口を開けながら和惟をじっと見ると、相変わらず恰好よくて頬が火照る。
せっかく和惟がいつもどおりに戻ってくれたのに、真弥は恥ずかしい。和惟への気持ちを自覚したからだ。平松もいないし、意識を逸らせずずうっと和惟のことを考えている。
「あれ」
「どうしたの?」
「う、ううん」
食べさせてもらっていて、ふと思う。
これってお母さんと赤ちゃんじゃない?
和惟が真弥を好きなことは知っているけれど、こんなのが続いていたら愛想を尽かされるかもしれない。今までその考えに至らなかったことが不思議なくらいに不安が胸に広がる。
口を閉じた真弥に、和惟は首をかしげる。
「これからは自分で食べる」
「……どうして?」
和惟の瞳がほの暗さをたたえ、ぞく、と冷や汗を感じる。どうして――「和惟が好きだと気がついたから」とは答えられない。でもこのままはいけない気がする。ひとりで大丈夫なようになりたい、なんて本当のことを言ったら絶対に心配される。
「えっと、ちょっと……なんか、自分で食べてみるのもいいかなって」
しどろもどろになりながら適当にごまかす。和惟は真弥に疑わしそうな目を向けていた。
恋ってすごい。
もっといい自分になりたくて、苦手な勉強も頑張れることが信じられない。和惟に褒めてもらいたい、と頭に浮かび、小さく頭を振る。ひとりで大丈夫なようになるのだと決意したのに、和惟の反応ばかり考えてしまう。でも、こうやって和惟のことでふわふわとした気持ちになる自分も悪くない。浮かれているような落ちつかない心持ちで授業を受けた。
「真弥、なにかあった?」
「なにか?」
唐突な問いかけにどきりと心臓が跳ねる。
「最近の真弥、なんかおかしいから」
「……えっと」
和惟が好きなことを自覚したと言っていいのか悩んでいる、と正直に答えていいものか。和惟も真弥を好きだとずっと言ってくれているので、伝えても大丈夫かもしれない。
――男同士で。
不意に平松の言葉が頭に蘇った。
男同士で好きなことはいけないのだろうか。食べさせてもらうのがおかしいのだから、もしかしたら恋愛感情を持ってはいけないのかも――。
ちらりと和惟を見る。
そもそも自分の好きと和惟の好きは、はたして同じなのか。和惟はあくまで幼馴染として好きだと言ってくれているとしたら、勝手に勘違いをして告白するなんて迷惑をかけるのではないか。
「えっと……」
口ごもり、続きが言えない。和惟はさらに不審そうな顔をする。
「和惟の俺に対する『好き』って、どういう好き?」
きょとんとした和惟は、首をかしげる。
「好きは好きだけど、ただ好きなんじゃないんだよ」
ますますわからないけれど、やはり「好き」には種類があるようだ。友だちが好きなのと恋愛感情が違うようなものかもしれない。真弥は、和惟にぎゅっとしてもらいたいような好きでも、和惟は違ったら――。
「そうなんだ」
それ以上は言えない。言って拒絶されたり、嫌われたりするのが怖い。
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