やり残した事

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「俺、今マジで時間なくて…とりあえずドレスを先に用意したいんだよ。一日だけでいい、いや…数時間でも借りられたらいいんだ」 姉ちゃんは途端に眉間にシワを寄せ、腕組みをし「うーん」と唸った。 「うちと提携してる貸衣装屋も、一日とかいうなら試着でドレスを着られるけど…そもそも予約をさ、せめて一ヶ月前にしないと無理かも。私もそれを何とかできる程の立場じゃないんだわ、ごめん。航太郎…」 それを聞いて俺はがっくりと肩を落とした。気持ちばかり焦って、どうにかゴリ押しでなんとかなるだろうと姉の元へ来たが、そう簡単に事は運ばないものだ。 「…だよな〜。ま、言ってみただけだから! じゃあ…俺、帰るわ」 申し訳無さそうな表情の姉に、軽く手を振って部屋を出ようとすると、次の瞬間腕を掴まれた。 「ねぇ! 作ってみる!? ドレス!」 さっきとは打って変わって、キラキラと目を輝かした姉の顔は、やや興奮の色を纏っていた。 「は……? 何言ってんの?」 「時間ないんでしょ? 付け焼き刃にはなるけどさ、ウェディングドレス何とか準備できるかも!」 そう言うと姉は「ちょっと待ってて」と急ぎ出かける準備をし始めた。 寝室のドアを閉めるなり、一瞬で着替えを済ませ鬼のような速さで化粧をし終えた。 「よし! 行くぞ、弟よ」 「へ…ど、どこに?」 また腕を掴まれ、姉と俺は玄関を出た。 ――あぁ、そうだった。姉ちゃんの性格は「猪突猛進」。何かを閃いた彼女の勢いは誰にも止められないのだ。
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